
統一感のある綺麗な街並みやカフェのテラス席でくつろぐ人々。そんなお洒落なイメージのあるフランス・パリの一角に、日本のおむすびが行列を生んでいる。そのお店とは、日本で首都圏を中心に展開するおむすびチェーン「おむすび権米衛」だ。2017年にヨーロッパ1号店としてパリ・パレロワイヤル店をオープンし、現在はパリに2店舗(パリ・パレロワイヤル店、パリ・レピュブリック店)を構える。パレロワイヤル店では、平日は600〜700人、休日は700〜800人が訪れ、日本の店舗を含むおむすび権米衛全店舗の中で1位の売上となった程の人気ぶりだ。平日は近隣のオフィスで働く人々や観光客が、週末はパリ郊外から買いに来る客もいる。
日本のソウルフードがなぜここまでパリの人々に愛されるのか。パリでのおむすびブームの火付け役である、おむすび権米衛の現地法人「Gonbei Europe」の代表であり、慶應OBの佐藤大輔氏に話を聞いた。おむすびが受け入れられている理由の一つに、多宗教・多民族の嗜好に対応できる点があるという。具材次第でヴィーガンフードにもなり、幅広い層に受け入れられやすい。フランス料理を研究してきた佐藤氏の知識を活かし、フランス人の嗜好に合った味を取り入れることで、現地の人々にも自然に受け入れられている。レシピの基本は日本の店舗と変わらないが、パリの人々の好みに合わせて味付けを調整し、スパイシーチキンなどのオリジナルメニューも加えている。また、人気を得るためにはロイヤリティが重要であるというパリの飲食業界の特性を踏まえ、広告を出さずに、スタッフと顧客の関係を大切にすることで、リピーターの増加につなげている。こうした工夫に加え、平均ランチ価格が10〜20ユーロのパリにおいて一つ3ユーロ以下という手頃な価格も影響し、気軽なランチの選択肢としても人気を集めている。
おにぎりはフランスでは寿司やラーメンに変わる新しい食べ物として認識されている。現地の人々にとって、おむすびは、日本人がデパートで特別なクロワッサンを買うような感覚で、トレンド感のある食べ物として受け入れられている。実際、パリのファッションウィークでも、有名なアパレルブランドからケイタリングの注文を受ける。
もともとパリに出店することになったきっかけは、2016年のジャパンエキスポ(毎年7月にパリで開催される日本文化を紹介する博覧会)への出店での大盛況だ。アニメや漫画の中でキャラクターが食べていることから、日本文化を好むフランスの人々からおむすびは認知されていた。しかし今では、日本に興味がある人だけではなく、あくまで日常的な食べ物として認識されるよう戦略を立てている。店舗スタッフをマルチナショナルにすることで、あえて「日本らしさ」を前面に出さず、日本食店ではなく、ファストフード店としての競争に挑んでいるのも特徴だ。日本らしさを強調しすぎると、顧客層が日本に関心のある人に限られてしまう。佐藤氏は、「日本に関心がある人に向けたおむすび屋ではなく、パリの人々の食生活の一部になっていきたい」と話した。
(後藤ひなた)