
推理×幽霊。累計部数750万部を突破した伝説のミステリー。今回はテレビ化された「怪盗 山猫」シリーズでも有名な神永学氏の代表作、「完全版心霊探偵八雲1 赤い瞳は知っている」を紹介する。
あらすじ
死者の魂が見える赤い左眼を持つ大学生、斉藤八雲。彼を訪ねた小沢晴香は、ある廃屋に出ると噂の幽霊について調査を依頼する。八雲は晴香とその廃屋に行ってみるが、突如謎の黒い影に襲われる。彼らを襲った黒い影の正体とは?そして幽霊の噂の真相とは?調査をしていく中で一つのおぞましい事件が浮かび上がる。
感想
死んだ人間が見えるという一つの設定により、事件解決までの過程が他の作品にはない斬新さをもっている。トリックや解決方法も興味深いが、本書の最大の魅力は幽霊と真摯に向きあうことで分かる、死んでしまった人間の“温かさ“と己の欲望のために他者を犠牲にする、生きている人間の“冷たさ“である。そんな歪な対比にも注目して読んでみると面白いかもしれない。
余談①
正直この本を最初に手に取った理由は、文庫本のカバーイラストが格好良かったからだった。読んでいくうちに普段は気怠るそうにしている八雲が、自身の赤い瞳と鋭い洞察力で事件を解決していく姿にまず惹かれた。次に、八雲が苦しい過去と己の能力による葛藤に苦しみながらも、事件を解決していく姿に惹かれる。最後に、そんな彼を側で支える晴香に徐々に心を許していきながら、事件を解決していく八雲の姿に惹かれる。
余談②
ミステリーというジャンルは、1841年にアメリカの作家エドガー・アラン・ポーが「モルグ街の殺人」を書いたことで始まったと言われている。そこから150年以上の歴史を経た現在もなお、ミステリー小説は多くの人から愛され続けている。筆者のマイブームは超常現象と事件を掛け合わせた作品である。今回紹介した作品もそうだが、現実ではあり得ない能力や現象がトリックや解決の手段、犯人の動機に関わる小説は、他の作品との差別化が図りやすく、読者にとっても新鮮さがあり読んでいて純粋に面白い。また、事件の根幹が非現実的であるため、それを取り巻く人間模様や風景の描写が相対的に現実味を増すのが魅力的だと思っている。
(狩谷東之介)