
(前編はこちらから)
防衛産業、国防の重要性
―帰国後はどのようなことに取り組まれていますか。
2022年冬、サッカー元日本代表の本田圭佑が設立したKSK MAFIAというファンドの投資家に選ばれた際、同じメンバーとしてUC Berkeleyの応用数学科出身で、株式会社Solafuneを創業した上地練に出会いました。彼は衛星データの解析技術を研究しており、沖縄出身という要素も手伝って、衛星データを安全保障に用いることに強い関心を持っていたのです。自らの戦争経験を生かすにあたって、彼と視点が一致したため、政府渉外役としてSolafuneへ参画することを決めました。
―そこでは主に何に取り組まれましたか。
国内、国外と大きく分けて2つあります。国内向けでは各省庁や閣僚レベルの事務所と関係を構築すること、国外向けでは海外の政府と交渉し、我々の技術を用いたプロジェクトの組成に勤しみました。在日大使館に何度も足を運び、その中で現地政府や管轄の大臣などとコネクションを作ることもありました。衛星データを用いて、世界で起きている山火事や鉱物資源の違法採掘といった国境を越える大規模で複雑な問題を解いていくため奔走しています。
海外現地での交渉には危険が伴うことも当然ありますが、戦争を実際に知っている身のためここでは言えないようなアクシデントが起きたとしても、リアリズムを持ち、冷静に対処することができるようになりました。これまで特段の問題を感じたことはありません。
―他に事業は行われていますか。
私自身が創業、代表パートナーを務めるAsia Defense Innovation Fundという防衛ファンドに力を入れています。日本の安全保障に資する国内外の防衛技術スタートアップへ投資し、国内の防衛産業とスタートアップのエコシステムの統合、同志国と官民双方でパイプを構築し、複雑怪奇な国際環境において母国を守るという目的に従い、重要インフラの構想も練っています。
戦後日本の安全保障観のまま我が国を本当に守ることができるのか、未来の当事者たる二十代の我々こそ慎重な議論を重ねていくことが将来の日本にとって重要だと考えています。防衛技術とは先端技術の結晶であり、産業競争力の源泉です。日本は経済規模が縮小していく中で、他国との対話を蔑ろにせず、譲らぬ部分をしっかりと持ち、国際社会でプレゼンスを発揮していかなければ成りません。
日本と世界を繋ぎ止め、事を成すフィクサーへ
―ご自身の経験から見た、日本の強みと弱みは何でしょうか。
日本には、独特な島国文化として育まれた、先祖を敬い、自然を大切にし、集団の和を重視するといった倫理観があります。これは、善い悪いは抜きにして珍しいものであり、日本人の強みであると考えます。仮に日本人として、どれだけ日本のことを嫌っている人がいたとしても、皆日本の歴史にある文脈から逃れて生きることはできません。どんな人にも歴史の系譜は存在します。その中で、先に挙げた精神性だけは見失わないでほしいと思います。弱みは強みに変えるだけなので、特にコメントしません。
そして、精神性以上に重要な論点があります。その代表的なものがまさに防衛産業を考えることです。日本は先の敗戦後、平和国家としてのプレゼンスを背負い、経済優先主義でアメリカに国防を任せてきました。しかし、自分のことを自分で考えられない国の末路は想像に難くありません。カオスを極める現在の世界情勢の中で、日本人はもう一度国家とは何かを考える必要があるでしょう。
―今後の展望をお聞かせください。
短期的には、産業リソースの安定調達に最も注力したいと考えています。国民を守りながら産業や経済を活性化させるには、生産を維持するために必要な鉱物資源やエネルギーの安定調達が欠かせません。衛星技術を用いてアフリカ大陸のサプライチェーンを可視化することで、日本の鉱物資源外交の先駆的な存在を目指すSolafuneで行ってきたことはその一例です。
私には参考にしている先人たちがいます。高崎達之助や梅屋庄吉、正力松太郎などです。彼らに共通するのは、民間人でありながら外国と日本を繋ぎ、日本の国益に資するような仲立ちをしたことです。
私の長期的な展望は、彼らのように、表に名が知られなくとも、日本が危機に瀕した時、相手国と交渉し日本を守れるようなフィクサーで在ることです。自分の母国がいい方向に行くのであれば、いくらでもそうした役を買って出るつもりです。
若者は常に世界をアップデートする
―最後に、読者に一言お願いします。
これを読んでいるのは10-20代の若者、つまり未来を作っていく同志だと思います。
これは、慶大の学生だとか、日本人だとかは関係なく、若者は常に世界をアップデートする能力を持っている上に、その能力を有効に発揮し、反証可能な形で世界の記憶に残らなければなりません。その際に重要なことは、自己認識の「広さ」と時間軸の「長さ」だと思います。「自分は世界に対して何を生み出せるのか」「何を未来に託すのか」という問いに集中し、生かされた自覚を持って残りの決して長くない人生の時間を丁寧に使いたいと思います。
(山田裕介)