
アメリカ大統領選挙の全容に迫る 第3回
森教授が語るトランプ外交 激動の国際情勢と日本外交の役割

2024年11月のアメリカ大統領選挙において再選を果たしたドナルド・トランプが、いよいよ大統領に就任する。アメリカ・ファースト(米国第一主義)を掲げるトランプ氏の就任により、これまでのバイデン政権が進めてきた政策からの転換が予想され、同盟国である日本に対する政策にも注目が集まっている。
そこで、トランプ次期政権が正式に発足する前に、慶大法学部の森聡教授(写真)に取材を行った。森教授は、次期政権の政策動向が及ぼす国内外への影響について鋭い洞察を示した。
連載3回目では、その主な内容を紹介する。
●米中関係 関税で圧力か
対中政策については、一次政権に引き続き、大統領は経済に重点を置く姿勢が予想される。一次政権では、貿易不均衡の是正を目的とした農産品や工業製品の輸出拡大などを中国に要求し、追加関税で圧力をかけた。しかし、トランプ氏は今のところ中毒性のある鎮痛剤フェンタニルの対米輸出を止めていないことへの制裁措置として関税に言及したりしており、何を目的とするかはまだ見えない。関税政策については、国に応じて様々な目的で圧力手段として使用するケースがありうるので、交渉を通じて何らかのディールが成立していくのかどうかが注目される。
一方、安全保障の分野では、次期政権の外交・安保チームは、台湾の防衛力強化支援や対中抑止を目的とした防衛協力を進め、中国に対抗していく姿勢を見せていくとみられる。また、バイデン政権から引き継がれる技術覇権競争も規模拡大の可能性や、恣意的な適用除外の可能性がある。特に半導体やAIなどの分野では、国家安全保障上の理由で厳しい規制が継続される見通しだ。最大の不確実要因は、トランプ氏が習近平氏と何らかのディールを結んでいくのかどうかということであろう。
●日本 同盟国として能動的に
森教授は、日本の国家安全保障戦略や防衛装備計画がトランプ次期政権にどう評価されるかが当面の注目点になるとした。また、日本自身が安全保障における役割をさらに拡大するために、 GDP比2%以上の防衛費を視野に入れた積極的な対応が必要である。
さらに、日本はトランプ次期政権のアメリカ第一主義がもたらす影響を見据え、同盟国としての役割を能動的に果たすことが求められる。防衛面だけでなく、経済や技術分野での協力も深めることで、日米関係を新しい形でより強固なものにしていくことが重要だ。
●ウクライナ 欧州の安全保障体制に注目
トランプ氏は戦争のロシア・ウクライナ戦争を早期に実現することを言明しているものの、停戦案の内容は未だ不透明だ。おそらくこれから具体的な検討がされていくと考えられるが、ウクライナ支援の負担をヨーロッパ諸国に転嫁する方針が強化される可能性は高く、停戦合意が実現する場合には、欧州諸国は新たなヨーロッパ安全保障体制の構築の議論が避けられないだろう。欧州安全保障においては、アメリカの役割が限定的になることで、ヨーロッパ諸国がより大きな責任を負う新たな安全保障秩序を形成できるかどうかが試される。ウクライナ支援をめぐる国際的な協力体制の行方が、今後の大きな注目点となる。
●日本 人権・民主主義の価値観共有する国々と協力を
今後アメリカは、国際社会において、その地位を低下させていく可能性がある。トランプ次期政権の一国主義的な姿勢は、アメリカの国際的リーダーシップを弱めるだろう。日本の外交は、民主主義や人権といった価値観を共有する国々との協力を維持しつつ、様々な非民主主義国家とも相互利益に基づいた関係を築くことが求められる。
また、アメリカの影響力の低下に伴い、日本がリーダーシップを発揮する機会が増加すると考えられる。特に、技術革新やエネルギー安全保障、食糧安全保障、グローバルヘルスなどの分野でレジリエンスを高めるための国際協力を推進することで、持続可能な経済成長と強靭性向上を両立させるような道筋を示すべきだ。
トランプ次期政権の政策は、アメリカ国内のみならず、国際社会にも広範な影響を及ぼすことは間違いない。特に米中関係、日米同盟、そしてヨーロッパとの新たな役割分担が今後の重要な焦点となるだろう。森教授は、日本はその中で独自の役割を果たしつつ、普遍主義と多元主義の両方に依拠した外交を推進することが求められていると指摘した。また、各国におけるポピュリズムや一国主義、地域紛争、大国間競争などの動向が国際関係を流動化・不透明化させている中、日本は安定的な国際秩序を構築するための旗振り役を担うことが期待されているという見方を示した。このような状況の中で、日本の外交と安全保障政策には一層の充実が求められてゆくだろう。
本連載が、大統領選を中心にアメリカの政治情勢について理解を深める一助となれば幸いだ。
(箱﨑真子)