iPadの画面から、瞬く間に抜け出す鳩やメガネやチーズ。時には煙さえも画面の世界を飛び出す。誰もが一度は目にしたことがあるであろう、iPadマジックの生みの親、内田伸哉氏。
とにかく「ソリトン」作りたい
「とにかくエンタメでソリトンを作りたかったんです」。ソリトンとは「孤立波」のこと。壮大な波が海上でうねるように、観客を沸き立たせたい。そう語る内田氏は、コピーライターとして、プロデューサーとして、エンターテインメントの世界でマルチに活躍してきた。慶應中等部に入学後、塾高時代から奇術部に所属し、理工学部生時代にはすでにプロのマジシャンとして活動。しかし内田氏は、「マジックはあくまでも、『ソリトン』を作り出すためのツールのひとつ」だと言う。「例えばスポーツの試合における『ソリトン』には筋書きがない。それとは対照的にエンタメにおける『ソリトン』には必ず筋書きがあり、自らが描いた筋書き通りに『ソリトン』を起こすことができる」とし、マジシャンを含めた自身の活動全てが観客を沸き立たせることに帰結すると語る。
内田氏がこれほどまでにこだわる「ソリトン」、それは幼少期に端を発する。2―3歳の頃、とにかく物事の仕組みがわからないことが悔しいと思う時期があった。それらの多くはやがて理解できるようになったが、唯一わからなかったのがテレビの仕組みだった。「例えば自転車が前へ進む仕組みはよくわかっても、テレビがなぜ映るのか、その仕組みが目で見てわからないのが、悔しかった」
挑戦から好きなこと見つけて
その感情をきっかけに内田氏はやがて、よくわからないことや、難易度の高いことに興味を持つようになった。そして得た結論は、「すべての物事の中で最も難しいことは、人間の心を動かすこと」。その思いから、計画的に人間の心を動かすエンタメの世界に惹きつけられた。
「人生において成功するためには、常に問題意識を持つこと。そして、その中で自分にしかできないことをすること」が大切だと語る内田氏。塾生が学生のうちにするべきことは、「好きなことを見つけること」だとする。「大学生のうちに自分の好きなことを見つけておくと、将来的に自分が何をしたいのか、具体的に考えることができ、その後の人生の見通しが立てやすい」
内田氏は最後に「まだやりたいことや好きなものがわからない学生は、どんどん挑戦するのが良い」としつつ、「けれども、無理をする必要はない。決して突き進むことだけが良いとも限らず、平凡で安定した生活を送るのも良い」と穏やかに語った。 (長谷川礼奈)