理工学部を代表する教授の研究内容について探ってきたこの連載。今回お話を伺ったのは、応用化学科の鈴木孝治教授。
鈴木教授の専門分野は「分析化学」である。その分野の第一人者として、化学の学会では国内最大にして、世界でも有数の規模を誇る日本化学会の学術賞などを受賞してきた。慶大の理工学部における「分析化学」の研究は、学部開設当時から続く長い研究分野の一つであり、鈴木教授は研究室の4代目の主宰者にあたるそうだ。
「分析化学」というのは、ある物が何の化学物質でできているのかを測定するための理論や方法を研究する分野である。
主に鈴木教授の研究室では、分析化学の知識を基にして、バイオ・医療・環境・食品に関わる化学センサーの開発を行っている。化学センサーとは、ある特定の化学物質を検出したりするものであるが、具体的に鈴木教授が開発したものにはどのようなものがあるのか。
その一つが、現代における大きな医療問題となっているシックハウス症候群の原因物質ホルムアルデヒドを検出するセンサー、「ドクターシックハウス(関東化学)」や「FP―30(理研計器)」である。鈴木教授の開発したホルムアルデヒド検出センサーは国内シェア1位でもあり、「FP―30」に関しては高額な機器でありながらも6000台以上生産し、近々国外への輸出も始まっている。
お酒に含まれるアルコールを検出するセンサーも開発中である。現在警察などでよく使われているものは、低温でのアルコール検出率が悪いという欠点があったが、鈴木教授の開発したものはそれを克服している。将来的に自動車への搭載を考えており、「開発中のセンサーによる呼気の測定と、カメラによる運転手が変な動きをしていないかという測定を連動させ、酒気を帯びていると判断するとエンジンがかからないシステムを作りたい」と、飲酒運転撲滅への役割の一端を担うことを期待している。
また、鈴木教授は大学教授の顔とは別に、慶大発のベンチャー企業「AISSY株式会社」の取締役会長という顔を持っている。AISSY株式会社は、鈴木教授が開発した味覚センサーを利用して、依頼された食品の味成分を測定し調査する企業であり、教え子が社長をしている。これまでに100社を超える様々な大手食料品・飲料品メーカーなどから、メーカーが製造した食品や飲料の味成分の測定を依頼されている。特においしい味を創ることを科学している点が面白い。
鈴木教授は分析化学の研究について、「基礎研究はしっかりやるが、最終的には世の中で役に立つ技術を作ることが大事」と話す。その言葉通り、先ほど紹介したホルムアルデヒド検出センサーではシックハウス症候群に悩む人を減らすため、味覚センサーでは食品の品質管理や美味しいものを創るため、と人に役立つ製品が開発されている。これからの自身の研究については、「アイディアを出し、失敗を恐れず、さまざまな課題にチャレンジすることで、今の研究が5年、10年で新しい技術にしていきたい」と、世の中で役に立つ技術や製品の開発に向けての飽くなき探求心を熱く語ってくれた。
(小林知弘)