第46回織田幹雄記念国際大会男子100m予選。ゴールを駆け抜けたのと同時に観客はどよめいた。速報掲示板には日本歴代5位のタイムとなる10秒08の文字。記録を出したのは慶大が誇るスプリンター、山縣亮太(総2)だ。
昨年は思ったようにタイムが伸びず、不調から抜け出すきっかけを探しながら試合や練習に臨んでいたという山縣さん。そのきっかけが見つかったのは今年3月に行われた日本陸上競技連盟での合宿だった。「陸連の合宿で、走りの技術以上にものの見方が変わった。今まで自分の感覚的なことを重視して走っていたが、人の話を素直に聞けるようになった」
この合宿での内面の変化によって技術面でもプラスの影響があったと山縣さんは話す。自らのウィークポイントである中盤から後半にかけての伸びが改善され、理想的な走りのイメージが確立されたというのだ。その上で臨んだ織田記念では予選に続き決勝でも10秒16の好タイムを記録し、優勝。ロンドンオリンピック参加標準記録Aを突破した。
しかし短いスパンで試合をこなすことで、いつしか山縣さんの体には疲労が蓄積されていた。最後のオリンピック選考大会である日本選手権を前にしてまさかの右脚を故障。
そして迎えた日本選手権大会。この大会で優勝すれば、オリンピック出場が内定する大事な一戦だった。怪我のため、練習ができるようになったのは大会の1週間前。決して不安がなかったわけではない。しかし、誰かに勝つことよりも自分が築き上げた理想の走りをすることが何より重要だった。
結果は10秒34で3位。優勝は叶わなかったが、他の選考大会の結果を総合的に判断され、100m、4×100mリレーでロンドンオリンピック出場が決定した。
オリンピック出場が決まり、ホッとしたと話す山縣さん。だが試合を振り返り、「3位という結果は正直悔しい。しかし、怪我をしてしまったのも自分の実力。自分の体と向きあえていなかったこと、自分を応援してくれていた人の期待を裏切ってしまったことは自分の弱さだと思う」と語る。
現在、山縣さんはオリンピックでベストな走りをするため、怪我によってできた筋肉の左右差を調整中だそうだ。「怪我によって崩れた理想の走りの形をもう一度取り戻したい。より洗練された走りをするため追い込んでいる」
オリンピックという独特の雰囲気の中で、どこまで自分の走りができるかは未知数。期待されている以上の記録は出したいと語る山縣さん。「目標タイムは日本選手権以上。応援してくれている人に必ず成長した姿を魅せるので期待してください」
走りへの飽くなき探求心を胸に、ロンドンの舞台を駆けぬける。 (米田円)