夏の風物を思い浮かべてみる。風鈴、蝉、花火…。実物を間近にしなくとも、これらの音を聞くだけで夏を感じられる、といったことはないだろうか。この夏らしさを感じるというのはどのようなことなのか。聴覚と脳の関係について、慶大文学部心理学専攻、川畑秀明准教授にお話を伺った。
そもそも、音は耳から脳内にどのように伝わるのか。音が耳に入ると中耳の網膜が振動する。そして、かたつむりの殻のような形をしている内耳の蝸牛という器官で振動の周波数、つまり音の高さを捉える。これらは高さによりいくつかに分けられ、脳に伝えられる。さらにこの情報は脳内で大きさ、周波数、音色に分別され音として認識される。
では、認識した音から脳内でどのようにイメージができあがるのだろうか。川畑准教授は「聴覚はさまざまな感覚器官と結びつき、いわゆる『統合』して情報処理を行う。その情報と蓄積された知識が脳内に伝えられ、イメージ化が行われる」と話す。
さらに、音を脳で認識した際に生じるイメージには2通りあるという。風鈴の音を例に挙げると①風や涼しさを連想、②風鈴そのものを想像、の2つだ。
①は風を肌で感じる触覚、および涼しさを体感する筋感覚との統合による現象。脳に伝えられた音の情報は側頭葉の聴覚野で分類され、処理が行われる。処理後の情報は触覚の場合、頭頂葉の体感する要素を含む知識と結びつく。そして風鈴の音から涼しさを感じとるのだ。
②は視覚との統合であり、①と同様の処理がされる。そして後頭葉の視覚野が知識の想起を助長する。
知識は脳のいたるところに永久保存されている。そして、必要に応じて脳の奥深くにある海馬という器官が知識を引っ張り出し脳へと受け渡す。感覚から海馬へ情報が伝わり、海馬から脳内に知識が伝わることで、イメージ化へと導くのだ。
では、知識は脳内でどのように蓄積されているのだろうか。そして、どうして私たちは一つの情報から次々とさまざまなものを想起することができるのだろうか。
脳の中の知識はそれぞれが網目のように細かく結びついている。例えばスイカは野菜、夏らしさ、丸いなどさまざまな要素を備えているが、それらは知識として脳内に個別に存在する。この要素ごとの網目のようなつながりを辿ることで、直接捉えた情報以外も脳内で認識するのだ。
私たちは知識を獲得する際に、感覚を窓口として情報を取り入れている。「意識する世界はさまざまな感覚の足し合わせにより作り上げられる」と川畑准教授は述べた。
(下池莉絵)