慶大医学部微生物学・免疫学教室の吉村昭彦教授、七田崇助教授らの研究チームは脳梗塞を悪化させる新規メカニズムおよび炎症を引き起こすたんぱく質の発見を先月号の米国国際誌に発表した。同発見により新たな脳梗塞治療法の解明が期待されるという。 脳梗塞は脳内の血管が詰まることで周辺の細胞が壊死することから始まる。現在用いられている血栓溶解療法で、血栓を溶かすことで血流を戻すことは可能だった。しかし、壊死部分の炎症により周辺の神経細胞が死滅することは抑えきれなかった。日本では脳梗塞により年間約7万人が死亡している。仮に助かっても予後が良くない場合が多い。
梗塞後の炎症メカニズムとして、血液で運ばれるマクロファージと呼ばれる免疫細胞が活性化し、炎症物質を発生させて神経細胞死を引き起こすことがこれまでの研究でわかっていたが、今回そのマクロファージを活性化させる物質が「ペルオキシレドキシン(Prx)」というタンパク質であることを発見した。
さらに、Prxの抗体を脳梗塞状態にしたマウスにペルオキシレドキシンに対する中和抗体を投与したところ、炎症により壊死する細胞が大幅に減少した。
マウス実験の結果を人体に応用することによって、新たな脳梗塞治療法開発の可能性があるという。研究チームの吉村教授は「この結果をもとに、さらに研究を進めて一人でも多くの脳梗塞の患者さんを救えれば」と語った。