議論を重視してきた南條館長   (撮影 御厨慎一郎氏)

クモのオブジェが目を引く六本木ヒルズ森タワー53階。東京都内が一望できる展望台の上階に、現代美術を多く扱う森美術館は位置している。

美術に造詣が深くなくても美術に触れるきっかけを多く提供しているこの美術館。例えば、六本木の街を舞台とした一夜限りのアートの饗宴・六本木アートナイト。この企画は2009年から始まり、森美術館をはじめ、サントリー美術館、国立新美術館、六本木商店街、ミッドタウン、六本木ヒルズが東京都との共催で開催している。今年は3月24日~25日にかけて行われた。ギャラリートークやビデオアート上映を行い、六本木に足を運んだ人が気軽に、美術に触れることができる。

今回はこのユニークな美術館で2006年から館長を務める南條史生氏に、美術をより身近に愉しむ方法をうかがった。 南條氏は慶應義塾中等部から塾生となり、大学では経済学部へと進学。経済学部を卒業して社会人経験を経た後、文学部哲学系美学美術史学専攻へ再入学したという経歴を持つ。授業もさることながら、友人との議論が楽しかった、と学生時代を振り返る南條氏。「本を読んで、友人と政治や経済や文化について議論をする。議論が楽しくて、更に本を読む。本を読むと誰かに話したくなって、また議論をする」。議論を通して考える姿勢が、創造性の豊かさや現実性の確かさへと繋がっていったという。その繰り返しが積み重なり、自分で物事を捉えて、表現する現在の南條氏のベースになっているとも。 その上で、学生時代にはいろいろな議論ができる友達を作ってほしいと南條氏は述べる。「アートに、答えはない。触れた人がどう考え、自分の中で問いを立てる。それを人と論ずる過程に文化が存在する」

人と話すことを大切にする南條氏から見て、美術館は人と議論をする題材を得るのにうってつけの場所だという。「美術館に知識を持って来ないといけないなんてことはない。美術館を出た後、誰かと目にしたものについて話したり、論じたりすることを、訪れる人にしてもらいたい」 最後に、森美術館の試みについても伺った。「もっと多くの人に美術を愉しんでもらいたい。美術館にカメラを持ってきて写真が撮れる、そんな場。付加価値を提供したい」と南條氏は笑う。カメラを持って入り気になる作品を撮って、それを第三者に伝えられたりする新しい美術の愉しみ方。こうした提案を森美術館はすでに幾度か行ってきた。そこにはただ場所としてではなく、進化をし続ける美術館のありかた、美術の愉しみがある。

美術館は敷居が高く感じられがちな場所である。しかし雨の多い6月の休日、やることがないなと思う前に、美術館へと足を運んで、その後に友人と自分の感じたことや考えを話すことをおすすめしたい。話をしながら新しい発見をして、美術をもっと身近に楽しんでみてはいかがだろうか。     (梅山紗季)