遺伝がどれほど個性に影響を及ぼすのか。その疑問を解くために、慶應義塾大学のふたご行動発達研究センターでふたごの研究がなされている。センター長である安藤寿康教授にお話を伺った。
ふたご行動発達研究センターは、青年期、成人期のふたごを扱う「慶應義塾双生児研究」と幼児期、児童期のふたごを扱う「首都圏ふたごプロジェクト」で構成されている。これまでに合わせて1000組ものふたごのデータを集める。
センターでは、ふたごの知能指数や性格検査、社会性をアンケートにより調査。また、成長するにつれて遺伝の影響が大きくなるため、何年にも渡ってデータを取っている。
研究によって、遺伝的に同じ一卵性双生児と、通常のきょうだい(兄弟姉妹)と遺伝的には変わらない二卵性双生児の類似性を見つけ、個性への遺伝の影響を浮き彫りにする。例えば、一卵性双生児の方が二卵性双生児に比べて似た行動をとることから、心の動きは遺伝の影響を受けていると分かる。
特に学力は遺伝子で説明できることが多い。人の心理的形質における個人差の多くに、遺伝子が30%は関わっている。特にIQの遺伝率は最低でも50%と高い。そのため、遺伝的に情報処理が上手く、学力が高くなることがある。
こうしたふたご研究は、どのように社会に役立つのか。全てが遺伝によって異なるとしたら、遺伝子操作によって都合のいい人を作り出せる。しかし実際は、遺伝が全てを決めるのではなく、遺伝が人に影響する、ということに留まる。
「遺伝の影響が分かっても、実用的な役立ち方は考えにくい。このふたご研究には、遺伝が人に影響する、という思想的、哲学的な大きなインパクトを与え、人々に遺伝の影響を意識してもらう役割がある」、と安藤教授は言う。
遺伝学であるふたご研究は、本来医学部の生命科学や脳科学で研究されてきた。安藤教授は文学部で教育学の教鞭を執る異色の研究者だ。先天的な能力と関係なく、勉強すれば学力が高まると考ええる教育学にとって、遺伝の影響は水と油の関係。また、ふたご研究は難解な統計学を駆使するため、文学部で扱いにくいと考え、これまでふたご研究について講義で触れずにいた。
しかし、今年度から半期の講義としてふたご研究を取り扱い、教育や子育てに役立つ内容も含めながら積極的に塾生へ研究を伝えていく予定だ。
慶大への入学は、自らの努力だけではなく、遺伝の影響があったからかもしれない。「塾生の中には、遺伝的にIQが高い人が多いはず。その恵まれた遺伝を意識して、自分だけでなく、社会のために役立ててほしい」、と安藤教授は語った。
(井上絵梨)