近年、社会問題となっている薬物乱用。新聞やテレビでは薬物の密輸や薬物所持のニュースを耳にすることが多い。

その中でも、取りたてて報道されるのが大学生の薬物所持だ。昨年も数名の大学生が薬物所持・使用で検挙され、私たち塾生も、身近に危険が潜んでいることを改めて認識する必要がある。

そこで今回、薬物使用に詳しい樽井正義文学部教授に大学生の薬物乱用についてお話を伺った。

「麻薬」は、そもそもヘロインのことを指す言葉だった。しかし、現在では覚せい剤や大麻、合成麻薬であるMDMAなど、使用するとやめられなくなるような依存性のある薬物を広義に「麻薬」と呼ぶ。樽井教授は「以前は暴力団とその関係者の問題と見られていたが、最近では大学生もクラブなどで入手しやすくなった現状がある。大学生は主に、好奇心で使い始めてしまうようだ」と、大学生による麻薬使用の容易さを問題視する。

「麻薬は、強い意志を持っていればやめることができるという認識があるが、アルコール依存と同様、薬物は精神・身体的依存を形成するため、そうなれば意志の強さは関係ない」と指摘する樽井教授。薬物をやめようとすると、初期には不安や抑うつなどの症状、中期になると、幻覚やけいれん発作といったさまざまな症状に苦しむ。一度の使用が生活上の大きな支障につながりかねない。

「『麻薬はタバコより害が少ない』と言われるが、安全な薬物など存在しない。『ゲートドラッグ』と言って、ある薬物を使用するとそこからさまざまな薬物に手を染め、なんとしても手に入れようとする傾向が見られる。これが、『依存』です」と薬物に対する危機感の少なさを訴える。厚生労働省の報告によれば、平成22年の麻薬による検挙者のうち、約59%が再犯者であるそうだ。

また樽井教授は「薬物使用を警告するポスターやパンフレットは、『依存』を警告するという健康問題としての側面が抜け落ち、犯罪としての面ばかり強調している。薬物に手を出したら『その人は終わり』とみなすのではなく、薬物依存状態にある人々をどう支援するかもこれからの大きな課題だ」と述べた。

現状として、日本には「ダルク」や「NA」といった薬物依存からの回復を支援する団体は存在するものの、治療するシステムが少ないと分析する樽井教授。薬物依存は疾患であり、患者として彼らの回復を支えるような社会の構造を拡充させることが必要と指摘する。「刑事問題としてのみ扱えば『落ちこぼれ集団』を延々と作り出す『負のスパイラル』を生み出してしまう」

塾生として私たちは、「独立自尊」の精神のもと、行動しなければならない。これは、薬物使用に関しても同じだ。「好奇心」にかられ判断を誤らないよう、今一度自身を律する心が必要ではないだろうか。

(清水咲菜)