世界中であらゆるものが電子化される「大量デジタル化時代」に突入する中で、大学図書館にも電子化の波が押し寄せてきている。アメリカの大学図書館では書籍のデジタル化が既に進んでいるが、日本の大学図書館で提供される電子資料は理工医学系研究者向けの洋雑誌が多く、学部生向けの教科書や参考書などの日本語の書籍はほとんど電子化されていないのが現状だ。
2010年10月から慶大メディアセンター主導で、電子学術書利用実験プロジェクトが始まった。これは利用実験を行う慶大、コンテンツを提供する16の出版社、書籍のデジタル化を手掛ける大日本印刷と開発システムを担当する京セラコミュニケーションシステムが協力して行うプロジェクト。学生が閲覧・貸出できる電子学術書プラットホームを作り、学生モニターからの反応と評価を元に今後の電子書籍化の方向性を探っていくことを目的に始まった。
今回、このプロジェクトが第3期電子ブック学生モニター募集を迎えるにあたり、慶大メディアセンターの田村俊作所長にお話を伺った。
第3期電子ブックモニター実験では、過去のモニターのアンケート結果から得られた、電子学術書に関する学生からのさまざまな要望をシステムに組み込むことができた。田村所長からは「第3期からはシステムを改良したものを使用する予定です」と自信がのぞく。具体的には、手書きメモ機能・目次検索機能の追加や、蔵書検索システム(KOSMOS)からの書籍検索、メディアセンターから貸し出される携帯情報端末以外に自宅パソコンからの利用が可能になる。
「大学図書館で学生向けの電子書籍を貸出できるようになれば、学生にとって利用の幅が広がるのではないかという思いでこのプロジェクトを始動した」と田村所長。電子学術書の提供を実現するために大学図書館として実験を行うのは、日本の大学で慶大が初めてだ。
「電子書籍の性質は利用のしやすさにある」と田村所長は語る。紙の本と違い、かさばらず持ち運びが便利で、目的の書籍をキーワード検索などを用いて探すことが容易だ。しかし、書籍の電子化が進まないため、現時点で図書館が提供できる電子書籍は少ない。その理由は、出版社側の不安に加えて、提供するプラットホームが存在していないことがあげられる。「出版社と図書館が『書籍の電子化が進むと本が売れなくなる』、『図書館の存在意義が薄れる』などと後ろ向きにならずに、これから活発になってくるであろう書籍の電子化にむけて、協力しながら互いのビジネスの基盤を固めることが必須だ」と田村所長は語った。
このプロジェクト自体は2012年3月に一旦終了するが、電子学術書利用実験はまだ始まったばかりだ。田村所長は「今回のプロジェクトを通じて、手探りながらも電子学術書提供の問題点が見えてきた。この結果を踏まえて、日本国内でより効果的な電子学術書が提供できるように、大学図書館は今後も模索していく。大学図書館で電子書籍を貸し出す日もそう遠くはないのでは」と今後の展望を話した。
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プロジェクトの詳細について関心のある方はホームページから。http://project.lib.keio.ac.jp/ebookp/
(工藤玲奈)