慶應MCCシニアコンサルタントの安藤氏
慶應MCCシニアコンサルタントの安藤氏

「ゆとり世代」。そう呼ばれる世代が社会に出始めて数年が経つ。

就職氷河期、なにかと批判されるこの世代に企業が求めていることは何だろうか。社会人教育を目的とする慶應丸の内シティキャンパス(慶應MCC)で、ビジネスマンを対象に研修を行う安藤浩之氏にお話を伺った。

企業が求める人材像について、安藤氏は「伝統的な人材像として、人間性の尊重と付加価値創造性がある」と話す。人間性の尊重とは「相手を尊重し、チームワークを発揮すること」であり、付加価値創造性とは「新しい製品やサービスを生み出す精神のこと」である。

競争の中で生きる企業は、他社と差異化を図ることが不可欠だ。安藤氏は「企業の付加価値の源泉は、組織の中で働く人々。なので斬新な発想ができる人を企業は求める」と話す。またこれに加え、「2000年代の初めに起きた企業不祥事の影響を受けて、社会的な規範を尊重する人材を求めるようになった」と指摘する。

しかしこういった人材像の多くは、新入社員というよりは一人前の社員のイメージであり、入社1年目に求められるのは、「広範な知識」と「社会人基礎力」。安藤氏は「あまりにピンポイントで専門特化した知識しか持たないことは、将来の可能性の幅を狭める」と警鐘を鳴らす。一方、経産省が定義する社会人基礎力は「前に踏み出す力(主体性など)」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つで構成されている。

なかでも、今の若者に「前に踏み出す力」を企業が求めるようになったのは、2つの原因による反動だと安藤氏は語る。「第一に、今の若者が生まれ育ったのはバブルの崩壊以降であり、緊縮する経済の中で前に踏み出す力を育むことは難しかった」と指摘する。

第二に、ゆとり教育の失敗だ。ゆとり教育は詰込み型の勉強をやめ、子どもの個性を育むことを目標にしてきた。「個性とは、価値観・能力・欲求の3つから成り、これらは幼少期以降の経験や教育によって形成される」と話す安藤氏。

だが実際には個性に対する誤った認識により、社会が子供から健全な競争心をも奪った。その結果、ゆとり教育は成果を上げるどころか、頑張ることに意味を見い出せず、主体的になれない若者を増やすことになった。

一方、現在リーダーとして企業を運営している人々は、バブルの恩恵を謳歌し、「頑張れば上に行ける時代」を経験してきた世代だ。「ゆとり世代がしばしば批判を受けるのは、どうしてもバブル世代の基準で今の若者を見てしまうからではないか」と安藤氏は話す。

これから社会に出るゆとり世代に対し安藤氏は、「職業人生は一本の線ではなく、幅で捉えたほうが良い。早期に将来を決め打ちして可能性の幅を狭めるのではなく、将来の可能性の幅を広げる職業選択が望ましい。職業人生の選択は大学卒業時の一度かぎりではないのだから」と力強いメッセージを頂いた。

(池尻由貴子)