理工学部が主催する人間教育講座が今月11日、日吉キャンパスのJ24教室で開かれた。この講座は今回で第37回となる。
今回の講師は、詩人・小説家として数多くの賞を受賞し活躍している辻井喬氏。辻井氏は実業家としてもセゾングループ代表を歴任し、現在は公益財団法人セゾン文化財団の理事長を務めている。
「人間の価値とは何か」と題した講演の中で、辻井氏が東日本大震災を機に気づかされたことや学生時代の経験、小学校の教育に携わっていた時代のエピソードなどを披露。氏自身の考えに触れながら、知の本質や人間としての幸せについて解説した。
辻井氏は講演の中で、自己を客観視する力を得ることで、知の本質はどこにあるかということに気付くことができると話す。氏自身は限られた種類の文学や絵画にしか触れてこなかったが、他の文化を知ることで、それまでの自分の知識が鎖国状態だったと気づいた。「人間はいつでも変わることができるが、変わるということは危険をはらむ。自分をコントロールしようとする意識が働き、覚醒したり、発見したりすることを邪魔してしまうのだ。積極的に何かを求めるという姿勢で、自分が変わるチャンスを迅速につかむことが重要。そして考え方を切り替え、意識の鎖国から解放されるべきだ」と話した。
辻井氏は講演の最後に、「東日本大震災は、多くの日本人に幸せとは何か、価値とは何かということを考えさせるきっかけとなった。昔は幸せになるための手段としてGDPを上げようとしていたが、今はGDPを上げること自体が目的となってしまった。そのことによって人間的な中身の確認が疎かになり、最近の日本人の創造力が落ちているのではないかと危惧している」と語った。
講演後には学生による活発な質疑応答も行われた。