東日本大震災が日本を襲ってから、5カ月。被災地はゆっくりと、だが確実に復興へと歩みを進めている。少しでもその力添えになれば、と夏休みを利用して復興作業に携わる塾生たちがいる。それを主導しているのが「夏休み!南三陸町支援プロジェクト@慶應義塾大学」だ。
このプロジェクトでは7月末から8月末にかけて、10便のシャトルバスを日吉―南三陸町間で運行する。現地に到着した塾生・塾員は約4日間にわたって、現地のボランティアセンターなどと連携しながら瓦礫の撤去や住民向けのイベントの手伝いといった活動を行う。
発起人となった長沖暁子経済学部准教授は「南三陸町には慶應義塾が寄付した学校林があり、町民の皆さんには長年お世話になってきた。少しでもその恩返しができれば」とプロジェクトを立ち上げた理由を語る。
プロジェクト発足にあたって、学生を交えた第1回目のミーティングが行われたのは6月初旬。教員と塾生が共に行うという大々的なボランティア活動がスタートし、積極的な告知も行われた。
プロジェクトの日吉代表である安井將之さん(経2)は「私自身、阪神淡路大震災の経験者。幼かったため記憶は曖昧だが、多大な被害を見聞きしてきた。今回の震災が起きて、何かしたいのに何もできないもどかしさを感じていた。そんなとき、このプロジェクトが被災地との距離をぐっと縮めてくれた」と運営スタッフに参加した経緯を話す。
手探りの状態から始まったプロジェクトであったが、反響は大きかった。第7・8期の参加者募集に至っては、応募者が殺到し即日締め切りとなるほどであったという。
塾生の関心の高さがうかがわれる一方、「学生ボランティアにネガティブなイメージを持つ人もいる。学生にできることは本当に微力」と話すのはもう一人の日吉代表粟津文香さん(経2)。自己満足で終わってはいけない、むしろ学ばせていただくという姿勢でいなければ――これは彼女だけではなく、プロジェクトのスタッフ全員の思いだ。
そうした姿勢が強く表れているのが、バスの運行に先立って開催されたイベントだ。イベントへの出席をプロジェクトの参加要件とし、メンタルケアの専門家によるワークショップや、ボランティア経験者を招いての講演会、南三陸町に関する勉強会などを開催してきた。
7月26日、第1期の参加者20数名を乗せたバスが南三陸町に到着した。町には今もなお被害の痛ましい傷跡が残る。翌日行われた河原の清掃作業では、泥まみれになった家族写真や病院の診察券などが見つかった。
3年前に慶應義塾志木高校の研修旅行で南三陸町を訪れた中込健太さん(理2)。変貌した町の様子にあらためて衝撃を受けたが、「夜間の学習支援活動をきっかけに、研修時にお世話になった方と思いがけず再会できて安心した」と振り返る。
現地での活動は、まさに試行錯誤の連続。仮設住宅をまわった本橋駿さん(商4)は「思っていたよりも気さくに接していただいたが、何気ない雑談の時にどのような話題を出せばよいのか戸惑った」と率直な感想を口にした。
各人が感じた反省点や課題は夜のミーティングなどで共有し、必ず次の期へ引き継ぐことになっている。29日夜、到着した第2期のメンバーに必要事項を伝え、第1期の参加者は日吉に戻った。
南三陸町が直面する課題の多くは一朝一夕に解決するものではない。慶應義塾の支援プロジェクトもこの夏だけの活動にとどまらず、今後も形を変えて継続していく予定だ。
大震災の被災状況や支援の現状、そして何より傷ついた人々がいることを知らずに日本の未来をつくっていくことは不可能だ。このプロジェクトを通じて長期的に復興に携わる人が現れればうれしい。
(花田亮輔・竹田あずさ)