連載第3回を迎える慶應のおもしろ授業。最終回となる今回は、慶應義塾福澤研究センター設置の授業「近代日本と福澤諭吉Ⅰ」の教鞭をとる西澤直子教授と都倉武之専任講師にお話を伺った。
――開講経緯と目的は。
西澤「1983年に近代日本についての研究機関として福澤研究センターが設置されました。福澤諭吉は実にさまざまな活動をした人。慶大入学をきっかけに福澤を通して近代日本について学んで欲しいと考え、平成20年度から正式に福澤研究センターの設置講座として開講されました」
都倉「最近、他大学では自校史教育が流行りで、学校のオリジナリティーや起源を学生に意識づけよう、という試みが行われています。しかし本授業ではあくまで自然に身につけたり、感じ取ったりしてほしいと思っています」
――福澤諭吉を学ぶ意義とは。
西澤「福澤の思想の中には確かに現代の私たちから見れば古くさい面もあります。しかし一方で今日的意義も多くあり、現代の日本が抱えている問題にも繋がります。自身の問題を考えるきっかけにしてほしいと思います」
都倉「福澤は情熱を持って『今』を変えようとした人。学生のときはつい福澤を『先生』として距離を置いて接してしまいがち。しかし福澤を知ることは今を見るのに有意義な視点を与えてくれます。食わず嫌いをせず、自ら近づいて欲しいです」
――授業内容は。
西澤「福澤のイメージを1万円札の人とだけ思っている人でも分かりやすい入門編の授業を行っています。身近なところからということで日吉キャンパスの散策、地下壕見学も実施しています」
都倉「福澤の考えに基づいて形作られた慶應義塾を知ることで近代日本を考えるきっかけにしてもらいたいです」
西澤「またゲストスピーカーをお呼びして福澤に関連したお話をしていただいています。昨年度は連合三田会会長の服部禮次郎氏、清家篤塾長、読売新聞特別編集委員の橋本五郎氏、慶應義塾常任理事の長谷山彰氏などが講演されました。それぞれの視点で福澤を語っていただき、例えば橋本氏は『ジャーナリストとしての福澤諭吉』、長谷山氏は近藤勇と福澤諭吉を比較したお話をされました」
都倉「今年度は産経新聞社前顧問の鈴木隆敏氏、福澤諭吉のひ孫にあたる福澤武氏にも講演していただきました」
―今後の展望は。
西澤「今年度は震災の影響で授業数が少なくなってしまいましたが、来年からは増えるということで、より充実した、しかし敷居の低い授業にしたいと思います」
都倉「より秩序立てて、さまざまな学部の生徒がこの授業を受ければ、福澤と近代日本への1つの視点が持てるという授業にしたいです」
――ありがとうございました。
* * *
慶大の日吉キャンパスで開講されているユニークな授業にスポットを当ててきた慶應のおもしろ授業。第1回の人文科学特論ではフィールドワークを通して他者との対話の重要性を感じた。また第2回『21世紀の実学』では各界の最前線で活躍されている塾員の経験談から学生生活の送り方を再考させられた。
1、2年で自分の知的好奇心に従って授業を選択することは知識の幅を広げ、新たな視点を生み出してくれるだろう。昨今、就職活動でも課外活動や対人スキルなどに重きが置かれ、学業はどこかおざなりにされがちだ。学生の本分はやはり学業。「授業を通して」社会に出たときに役に立つ「実学」を養いたい。
(米田円)