「移民を受け入れると、選挙権はどうなるのでしょうか」「移民を受け入れるならば、介護に重点を置く方が有効なのではないか」―知識に裏付けられた、さまざまな意見がひっきりなしに飛び交う。慶應義塾大学弁論部の定例会だ。
慶大における弁論の歴史は長く、起源は福澤諭吉が明治維新後の混乱期に国民を啓蒙する人物を育成しようと、1874年6月27日に「三田演説会」を起こしたことにさかのぼる。三田演説会に影響を受けて誕生した様々な弁論団体が一つにまとまり、1907年に「弁論部」が発足。現在では日本最古の学生団体となっている。
弁論部の主な活動は、週2回の定例会と、他大学との弁論大会だ。定例会では毎回、さまざまな議題で討論を行い、弁論大会に備えている。幅広い知識の獲得や、より内容の詰まった弁論を作ることに繋がるそうだ。一般的な弁論大会は、弁士による10分程度の弁論と、それに関する観衆との質疑応答の様子を審査員が評価し、弁士に点数を付けるという流れで行われる。弁論の内容に加え、身振り手振り、声の大きさなども評価の対象だ。また、大会では「矛盾しているじゃないか」「その難しい用語はなんだ」というような「野次」が認められており、野次に負けずに弁論を行うことも要請されるという。
慶早新人弁論大会で優勝した幹事長、金崎翔平さん(法2)は、弁論のやりがいについて「自分の主張の価値が認められた、言いたいことが伝わったということが嬉しいですね。自分の考えを広い世代に伝えられたという自信もつきます」と話す。「入賞した弁論よりも自分の弁論の方が論理的だった、と諦めきれず悔しい思いをすることもあります」と代表・美谷島克基さん(総3)は語ってくれた。
ずばり「うまい弁論のコツ」は、聴衆の関心を出だしで掴むこと、言いたいことを端的にまとめることだという。自分の主張をしっかりと持っておくことも重要だ。また、「話すスピードが早くなると、焦っているように聞こえるので気をつけています」と金崎さんは言う。弁論の場である演台に立った時、堂々と自然な身振り手振りをつけながらはっきりと話すことが、意外に難しいようだ。
将来弁論をどう生かしていきたいかと聞くと、「どう他者を引きつけられるかを学び、政治の道に進みたい」「社会で誰かに対して熱を持って伝えるということを身につけたい」と、その答えからさまざまな可能性が感じられた。部の今後の展望は、「もっと色々な人、特に女性がいた方が多様性を持てるので、たくさんの人を集めたい」と金崎さん。美谷島さんは、「弁論界自体の問題でもあるが、大会なども内輪で行うだけにとどまっている。三田祭のイベントを始めとして、世間の人々との対話をしていきたい」と語る。
日本最古の学生団体は、日々努力を重ねながら時代に合わせて前進している。弁論という競技から、私たちも自らの情報発信へのヒントをもらえるのではないだろうか。
(池田尚美)