「大学に入ってから運動しなくて太ってきました……筋肉つけたいんですけど運動嫌いなんですがどうしたらいいのでしょう?」
(文2男)
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「逝ってよし。筋肉は一朝一夕でつくほど甘くはねぇんだよ!」そう叫ぶのは所員T(法3男)。水泳・野球・少林寺拳法とあらゆるスポーツを網羅したTの腹筋は鋼のように固い―なんてことはなく、彼のお腹も学生生活の中での怠惰な欲望を象徴するかのように膨らんでいた。そろそろ彼女が欲しいTが所長A(政3女)に相談すると「デブがモテるわけねぇだろ。甘いのはあんたの考えよ!ちょうどだしあんた、1カ月でマッチョになってきなさい!」と一閃。かくして調査が始まった。
色々考えたあげく調査方法はプロテインを毎日飲み、最寄駅まで歩くだけ。もっと運動しないのかって?いやいやめんどくさいっしょ。そもそもTの家から最寄駅まで徒歩30分もかかる。これがいい運動になっちゃったりするんです。
そんなこんなで調査スタート。ちなみに体重68キロ、体脂肪率14%での実践開始。
スーパーにてプロテインを物色するT。ココア、バニラ、チョコレートなど筋肉には縁のなさそうなスイーツな味が目に映る。「草食系とみせつつ実は肉食系ってことか……油断できねぇな」商品の前でブツブツ言ってたら周りの視線が集中してる。逃げるように手に取ったバニラ味を購入し帰宅した。
翌日、さっそく朝からプロテインを水に溶かして飲んでみる―が、不味い。「不味い!もう一杯!」おかわりしてもやっぱり不味い。なんだこれは……のどに残る粉っぽさ。どうやらプロテインが完全に水に溶けていないらしい。そして生クリームを水で溶かしたような気持ち悪いバニラの味。っつーかバニラ味ってなんだよ、バニラとか食ったことねぇわ。
しかしプロテインを飲んだのだからこれで筋肉ムキムキになるはず。嬉々としてTは公園を抜け駅に向かう。公園には部活にあけくれている中学生がちらほら。「筋トレとはご苦労なこった。ハッハッハ!」ほくそ笑みながら駅に向かうTの足取りは軽かった。
1週間後。胸筋が発達しすぎてピチピチになり、TシャツのサイズがMからLに変わった。良い傾向だ。ビルダーまでもうちょいってとこか。
2週間後。プロテインのまずさに耐えられなくなった。一日に貴重な三食のうち一食がこんなんで終わんの?食った気しないので深夜12時ラーメンが習慣に。ラーメン・イン・プロテイン。なかなかどうして悪くない。
3週間後。ズボンのサイズが合わなくなりもう一回り大きめのにチェンジ。腹筋とふくらはぎの発達が著しいようだ。ボディビルダーも大変な職業と痛感する。逆三角形も楽じゃない。
4週間後。どうしてこうなった……。
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1カ月後。「どうだった?なにやら一回りほど大きくなったみたいだけど……」Aに恐る恐る結果を報告するT。みるみるAの表情が険しくなる。「72キロ、体脂肪率17%ってどういうことよ!あんた何してたの!」
「いや…プロテインがあまりにも不味かったんで口直しのコーラとアイスで太っちゃっいまして…」。軽蔑の眼をしたAが部屋を去り、Tは頭に一句浮かんだ。
腹の肉 我こそ先にと 群れ集う 割れるのいつか 夢に見ながら
(田村UFO)