「中国で最も有名な日本人ジャーナリスト」として知られる加藤嘉一氏が、日本で待望の書籍デビューを果たした。
「中国人は本当にそんなに日本人が嫌いなのか」(ディスカヴァー社)。本書は、著者が北京大学で過ごした学生時代を振り返り、自分の目で見た中国を伝えている。「新聞やテレビの報道だけでは、等身大の中国は分からない。対中理解は、もっと主観的であるべき」と加藤氏は話す。
高校卒業後、北京大学に単身留学。中国語が話せない、お金はない、中国の知人は一人もいない。のちに中国メディアから「三無状態」と呼ばれるスタートだった。
転機が訪れたのは、留学3年目を迎えた2005年4月。北京で靖国問題に端を発する「反日デモ」が発生した。「中国の言論は日本人の視点を必要としており、そこに『市場』を見つけた」。テレビ番組にコメンテーターとして出演し、新聞や雑誌にもコラムを寄稿。今や中国での自身のブログは、総アクセス数2500万を超えるほどの人気ぶりだ。
本書はもともと、中国で出版された。日本の経済や政治、社会を分かりやすく読者に解説し、人気を博したものだ。基本的な枠組みに変化はないが日本の読者向けに、中国の基礎知識や自身の体験談を多く盛り込んだ。
実際に読んでみると、詳細な歴史的事実や難解な専門用語はほとんど出てこない。描かれているものは、中国の地下鉄の車内や北京大学の卒業式など、ありふれた日常の光景が中心だ。分かりやすい文章ではあるが、自身が18年間日本で過ごした経験を生かしながら、鋭い洞察力で中国社会を論じている。
中国の若者に焦点が当たっていることも、この本の特徴だ。恋愛観やアルバイト事情といった学生にも身近な話題を切り口に、同世代の加藤氏だからこそ分かる中国の実情がつづられている。
加藤氏は「真相は現場に存在する」と話す。中国に渡って以来、小さな出会いの積み重ねを大切にしてきた。「物事を論じるとき、ただ漠然と論理を述べるのでは説得力がない。エピソードこそが説得力」と力説する。
本書を通じて、一番訴えかけたい対象は日本の若い世代だ。「中国・中国人という存在は、これからの日本人にとって死活的に重要になってくる。好きとか嫌いの次元を超えて、まずは素直に相手を理解する強かな姿勢をもって」と話す。
加藤氏は「この本が、中国を理解するきっかけになれば」と語る。その次は、読者が自分の目で中国と向き合う番だ。
「卓上の空論を並べる時間があったら、格安航空券を購入して、ガンガン外に出て欲しい。発見はそこからしか生まれない」と塾生にアドバイスを送った。
(横山太一)