「ゆとり」と呼ばれた世代の塾生が、20歳を迎えてゆく。「塾生」としての20歳を選ぶために、「塾生ではない」20歳を捨てた私たち。 将来共に社会を作り上げていく他の仲間は、どのようなことを考え、生きているのだろうか。この連載では色々な環境に置かれている20歳前後の方々の生き方・考え方を取り上げ、そこから何かを学び取っていきたい。 (池田尚美)
慶應義塾大学には、「総合大学」としての一面がある。選択する機会がさまざまに用意されており、全く違う分野について学ぶ学生が近くにいる環境。それは塾生にしてみれば当たり前かもしれない。
しかし、単一の学部や系統から構成され、特化した学びを目指すことを目的とした学び舎、いわゆる「単科大学」と呼ばれる学校を選択した学生がいる。彼らは何を考え、どのように学んでいるのか。理系屈指の単科大学で、数多くの理工系学問が盛んな東京工業大学の学生に取材を行った。
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東工大では、数学や化学において学生が一定のレベルの知識を持つため深い内容の授業を受けることができる。同じ夢をもつ学生が多いことも刺激になるそうだ。
現在東工大第6類2年の星北斗さん(19)は、「小さい頃から絵や工作が好きだった。自分が社会に貢献するには建築が最も向いていると思い、建築学を学ぶため東工大を選びました。2年生で希望の建築学科に入れる成績を取るため、1年次はがっつり勉強しましたね。友人とインテリアコーディネーターの資格にも挑戦しました。理系科目は知識欲をかき立てられて、嫌でも充実した生活になります」と、自分の選んだ学問に勤しむ毎日だ。
大学側は6年間のカリキュラムで学生をサポートし、約9割の学生が大学院へ進む。しかし、「院に進み修士になるルートを通らない学生には辛い部分も多く、選択肢が限られてくる」と工学部経営システム工学科3年鈴木理史さん(20)は語る。4年間では専門的な知識が身に付かないまま終わってしまったり、3年次は実験に追われ就職が困難だったりするそうだ。
また、学生生活では学生の幅が狭いと感じることもある。星さんは「なんといっても女子の絶対数が少ないことは圧倒的に不利」、鈴木さんは「理系だけではどこか偏りがあるのではないかと感じていた」と話す。
単科大学の中でも「幅広い知識を持った人になりたい」と、鈴木さんは他大の授業が取れる「四大学連合複合領域コース」を履修した。このコースを利用し、一橋大学で学んだ鈴木さんは「文系の人の考え方や雰囲気も知ることができて有意義だった」という。文系の生徒について尋ねると、「主体性がありインターンに積極的に参加するなど、自分から行動していてコミュニケーション能力が高そう」という印象を受けたそうだ。
もし慶應に入っていたらと聞くと、「学生の幅も広く、楽しい学生生活が送れていたかも。でも東工大には満足しています」と星さんは語った。
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単科大学の学生たちはこのように、自分が選んだ学問を真剣に追求しつつ、どこまでも自分に欠けているものを見つめて成長しようと挑戦している。
自らの選んだ学問に情熱を持って取り組むことの重要性や、総合大学の環境の貴重さを、私たちはもう一度考えなければならないのではないだろうか。恵まれた環境を無駄にせず、人数が多いなかでも学部を越えて授業を履修したり、多くの人と関わること、そして主体性を持って選択できることの大切さを彼らから学んだように思う。