現在に至るまでの経歴を話す利根川氏
現在に至るまでの経歴を話す利根川氏

第34回理工学部人間教育講座が先月30日、日吉キャンパスで開催され、ノーベル生理学・医学賞受賞者の利根川進氏が登壇した。利根川氏は、「My Journey(私の進んだ道)」をテーマに、大学在学中からの軌跡、自身の研究内容を話した。                    (西村綾華)

利根川氏は1987年にノーベル生理学・医学賞を受賞し、現在マサチューセッツ工科大学教授・理化学研究所脳科学総合研究センター長を務めている。
 講演では、大学在学中からノーベル賞受賞、現在に至るまでの経歴を紹介した。
 利根川氏は京都大学に在学中、化学の分野で物質の研究を行なっていたが、大学の先輩から聞いた「分子生物学」という新しい学問に興味を持ち、同大学ウイルス研究所に進学。さらに研究を続けるためにカリフォルニア大学サンディエゴ校に留学した。
 博士号を取得後、独立準備を兼ねて基礎医学研究所で研究を重ねた。そこで研究室を率いていたレナート・ダルベッコ博士からスイスにある免疫学の研究所を勧められ、免疫の主体である抗体の遺伝子レベルでの研究に的を絞ったという。
 そこで抗体の多様性に気づき、マウスをつかって抗体の免疫グロブリン遺伝子を研究し、抗体の多様性を明らかにした。この研究内容が評価され、1987年のノーベル賞受賞に至った。
 利根川氏は免疫学研究について、「100年以上解明されていない重大な問題がたくさんある中で、自分がそれまで専門にしてきた分子生物学が全く異なる視点を持って解決するのに役立ったのでは」と話した。
 免疫学研究所で10年間研究した後、マサチューセッツ工科大学から依頼を受け、再び渡米。今までの研究内容とは異なる「脳科学」「記憶」の研究を専門として、今に至るという。
 利根川氏は現在の研究内容について、脳科学は自然・人文・社会科学の3つを統合する初めての学問であるとした。「分子生物学はどの分野でも応用が効くので脳科学の研究にも役立つ。脳構造はこの地球上で最も複雑で難しいが、人間は何者なのかという疑問を追及したい」と語った。
 最後に今の自分を形成するものとして恩師の存在を語った。「免疫学に飛び込んだ時もそうだが、周りの勧めがなかったら今の自分はいない。周囲にノーベル賞受賞者も多く、そのような研究者を観察しながら共に研究をしていた」と話した。
 講演後は質疑応答が行われた。利根川氏は学生の質問に答えながら、日本とアメリカの研究力の違い、現在の研究テーマである脳科学の魅力などを語った。「利根川氏が考えるクリエイティビティとは何か」という質問に対しては、「誰も思いつかなかったことを行動にまで移す人。壁を突き破れる人だと考える」と答えた。