「一度ほかの道を選んだからこそ、自らの内にある演劇に対する熱意を再確認できた」
現在、新進気鋭の若手脚本家として活躍する小峯裕之さんは、会社勤めの傍らに書き上げた初めてのドラマ脚本で、第8回「テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞」優秀賞を受賞。それを機に脚本家の道を歩み始めた。「大学に入るまでは、映画はおろか、小説にもあまり興味がなかったんです」
演劇に興味を持ち始めたのは、大学に入学してから。テレビでドラマを見るようになり、映画やドラマなどの映像作品を作ってみたい、と創像工房 in front of.に参加。
小峯さんが映像制作をメインに置く映画サークルではなく、演劇、映画、コント、何でもありの創像工房を選んだのは、役者をやりたい人たちと作品を作りたいと考えたためだった。そして初めて見た、サークルの先輩の舞台。舞台という小さい空間を生かしたセットの中で繰り広げられる世界に、魅了されたという。
小屋独特の雰囲気、目の前に座る観客。自分の物語の世界に対する、生の反応、そして緊張感。小峯さんは、演劇の世界にのめりこんだ。「サークル中心の生活でしたね。あんまり三田には行ってないかもしれません」と笑う。
演劇に熱中し続けた大学生活の後、生命保険会社に就職し、一度演劇から離れることになるが、サラリーマンとして働きながらも、脚本を書きたいという思いが消えることはなかった。とある週末にほぼ衝動的にドラマの脚本を書き上げ、シナリオ大賞に応募。「舞台の脚本は目の前にいるお客さんを想定してサービス精神を発揮してしまうのですが、ドラマの脚本は純粋に、リラックスして書くことができました」
そうして書き上げた初めてのドラマ脚本で、優秀賞を受賞。このまま進めって、背中を押されている。そう感じた小峯さんは、職業として脚本家を選択することを決意した。
一度は違う職業を選んだからこそ見えた、自分の中の熱意。「成功するかは分らない、厳しいかもしれない。でも演劇を仕事にしていけるのは喜びです」と話す。
主義主張より、お客さんを楽しませたい、びっくりさせたい。笑いを中心にした作品が多いのも、このポリシーのためだ。
だが、これからはミステリーやサスペンスといったジャンルにも挑戦していきたいという。「エンタテイメントという枠の中で、色々と挑戦して、エンタテイメントドラマを繰り広げられれば」
パズルのように組み立てられた構成で評判高い小峯さんの舞台が、また一歩、新たなステージへと踏み出そうとしている。
(橋爪奈津実)