今年も早いものでもう12月。年の瀬が近づくとこの曲を思い出すという人も多いのではないだろうか。
 ベートーヴェンといえば、クラシック音楽界の巨匠とも称えられるドイツの作曲家。難聴が悪化してほとんど何も聞こえない状況の中、類まれな才能と強靭な精神力を持って書き上げた傑作が交響曲第9番である。
 日本では「第九」と呼ばれ親しまれるこの曲、何といっても特徴的なのは独唱・合唱が登場することだ。「歓喜の歌」などとして知られているこれらの詞は、ドイツの詩人であるシラーの作品「歓喜に寄す」をもとにしたもの。ほとんどの人が一度は耳にしたことがあるであろう、あまりにも有名な曲だ。
 第1楽章はホルンと弦楽器が不思議な響きの和音を奏で、静かに幕を開ける。しかしティンパニの打撃音と弦楽器が静寂を打ち破り、ベートーヴェンの苦悩と葛藤を表わすかのような旋律が続く。
 第2楽章は躍動的な旋律が印象的な楽章。短調と長調のメロディーがかわるがわる繰り返され、ベートーヴェンの心の揺れを表しているかのように感じられる。
 反対に第3楽章は瞑想的で穏やかな楽章。木管楽器の優しい響きが心を落ち着かせる。
 そこに突然トランペットの強烈なリズムが鳴り響き第4楽章が始まる。影を帯びた旋律はやがて、あの有名な、希望に満ちたような旋律へとつながる。独唱の掛け合いや合唱が徐々に盛り上がりを見せ、最後はオーケストラと大合唱が一体となって壮大なフィナーレを迎える。
 長々と語ってしまったが、やはり音楽は実際に聴くのが一番。昨年の12月、オーケストラによるコンサート演奏に足を運んだ。生演奏はCDと違って視覚的にも楽しむことができ、どんどん演奏に引き込まれていく。目の前で歌いあげられる最後の大合唱は非常に圧巻だった。
 ベートーヴェンが遺したとされる言葉に”Durch Leiden Freude.”というものがある。「苦悩を突きぬけて歓喜へ」を意味するこの言葉もシラーの詩と関わっているが、当時のベートーヴェンの心情をよく表していると同時に、現代の私たちを勇気づけてくれるメッセージにも感じられる。
 いまや年末の風物詩ともいえる「第九」。クラシック音楽には興味がないという人もこれを機にぜひ一度、ベートーヴェンの集大成に耳を傾けてみてほしい。
     (陶川紗貴子)