大検を受け、慶大通信教育を卒業し、東大の博士へ―小中高大と学校に通い学者となるいわゆる「普通」のルートでなく、異色の経歴を持ち経済学者として活躍する柳川範之氏。
自身の歩みからは、「一本のレールしかない窮屈なものでなく、色んなルートの道がある」という言葉のように、学びの道の幅広さに気付かされる。
親の海外転勤の都合で海外生活が続いた柳川氏。当時は、公認会計士になりたい思い故に公認会計士試験の条件とされていた大学卒業の為に大検を受け、通信教育に励んだ。
だが公認会計士を目指していたものの、経済学との出会いは苦かった。「経済学のテキストを読んでも、絶望するくらいにさっぱり内容が理解できなかったのです」
そんな時、出会ったのが生活していたシンガポールで見つけたある本。この本との出会いにより、柳川氏は経済学の面白みに触れる。
「世の中は複雑で理不尽なことで溢れている。でもそんなごちゃごちゃしたものを整えて、社会や経済の仕組みをつくっていく。その面白さと深さを感じました」
経済学の面白みに魅せられた柳川氏。当初、公認会計士の勉強の一貫として捉えていたが、経済学の面白みを追求する目的へと心内が変化。公認会計士という道ではなく、経済学を深める為に学者の道へと志望進路を変更する。
とはいえ、海外生活のために目的の本が手に入りづらいことや、与えられたテキストをもとに大量のレポートをこなす通信教育のカリキュラムに対し、「何をどう勉強すればいいのか」という根本的な迷いに直面した。
そんな状況を克服したのは、限られた中で物事を発展させていく方法だった。
「大学の授業や与えられるテキストは、出がらしのようなもの。とっかかりとしてきっかけを提供されているものであって、そこからどんどん離れていってもいいと思います」
与えられたものを出発点にどう掘り下げるべきなのか。「自分なりに関心が持てることをひとつでいいから掘り下げていくことが大事だと思いますね」
東大大学院に入る以前、同大学の授業に潜り、聴講したこともあったという柳川氏。
経済学の面白みに魅せられ、ある特定のルートに捕らわれず、学者の道を歩んできた。
「学びの姿勢はひとつではないと思うのです。通信教育は、学びの姿勢を固定しないという意味で、素晴らしい手段のひとつなのかもしれませんね」
今ある手段をどう活かすか。活用方法の有益さは、個々に委ねられているのだろう。
(曽塚円)