毎年12月3日〜9日は障害者(※)週間だ。障害福祉への国民の関心と理解を深めるとともに、障害のある人があらゆる分野の活動に参加することを促進するために設けられている。

厚生労働省は従業員が一定数以上の事業主に対し、従業員の一定割合(=法定雇用率)以上の障害者を雇用することを義務付けている。民間企業の法定雇用率は2024年4月に2.3%から2.5%に引き上げられ、今後も上昇する見込みだ(表1を参照)。制度の変化に、企業の対応は追いついているのか。

日吉キャンパスで「障害者雇用の現状と未来」を開講する商学部の中島隆信教授に話を聞いた。

※障害者の「害」の字を避けるため、「障がい」「障碍」といった表記が広がっている。なお本記事では、法令等の表記で用いられている「障害」で統一する。

雇用促進の背景は、対象者の拡大

障害者の雇用拡大の背景について、中島教授は「障害者雇用率は、どんな人を障害者雇用の対象とするかによって変化する」と説明する。障害者雇用制度は、1976年の法改正による身体障害者の雇用義務化から始まった。1998年に知的障害者も雇用義務の対象となり、その後2018年には精神障害者も加わった。

対象とする障害の範囲が広がると、障害者雇用の対象となる人数も増える。そのため制度の設計上、法定雇用率も上昇し続けてきた。

こうした変化に対し、企業の対応は容易ではない。

中島教授は「身体障害の場合は、他の人と働き方があまり変わらない。知的障害については、単純作業の業務を切り出して担ってもらうことがシステム化されてきた」と話す。

しかし「精神障害のある人々に活躍してもらうためのノウハウが、まだ確立されていない」と、企業の苦悶を語る。

地域で労働需要に差

雇用率の達成を阻む背景には、障害者雇用の需給のアンバランスもある。

日本の人口は都市部に集中している。地方出身であっても進学をきっかけに首都圏に進出し、そのまま就職する人が多い。しかし「障害を持つ人は東京で仕事に就くことが難しい場合もある」と中島教授。

例えば、都市部では接客を中心とするサービス業の仕事が多いが、それらの仕事は障害の特性に適していない場合がある。他の仕事としては、郵便物の仕分け作業など企業の本社での事務作業があるが、自動化やデジタル化の流れを受けて、今後は業務が減っていく一方だという。

働く場所としては地方の工場がある。しかし、車を運転しないと通勤できない、家族と離れて仕事のある場所に移り住むことはできないといった困難がある。

そのため、中島教授がトヨタに話を聞いた際は「障害者を雇いたいものの豊田市内の障害者の数が少なく、法定雇用率の達成に奮闘していた」という。

中島教授は「障害者が実家を離れて、社員寮やグループホームから通うことができれば良いのかもしれないが、それは福祉の話になる。雇用と福祉の連携がうまく取れていない現状がある」と述べた。

投資的な発想を提案

雇用促進のためにも、中島教授は「障害者雇用をコストではなく投資と捉える」ことを提案している。

企業は、全ての人件費を投資だと考えている訳ではない。パートタイムや派遣で勤務する人は、今ある仕事の一部をこなすためのコストだと考えている。一方で正社員のように、長期的な視点から育てていく「投資」として雇っている人もいる。 

「障害者の中にもこの二種類がいるはずだが、現状は単純な事務作業を任せていて、キャリアの形成も難しい。障害者が投資的な側面から除外されてしまっている」と問題視した。

塾生へメッセージ 潜在的な力 育んで

中島教授は「講義の感想を読む中で、日吉の学生の障害者雇用に対する問題意識は高いと感じる」という。

同講義は、初めは商学部生に向けて開講していた。現在は全学部生を対象としており、理工学部生や薬学部生など多様な学生が受講している。塾生に向けて中島教授は「将来それぞれの職業に就いたときに、授業で学んだことが頭の片隅にあって、それを自分の専門性と結びつけることができれば」と期待した。

また、障害を持つ学生の就職について「大学にいる間に自分のポテンシャルを広げて、社会に出たときに自分が能力を発揮できる仕事を見つけられると良いと思う」と語る。

これまでの障害者雇用は、特別支援学校で訓練を行い、企業があらかじめ定めた障害者向けの仕事に就くという画一的な雇用形態を取ってきた。しかし「障害者の社会モデルを考慮すると、社会の方が多様性を受け入れていかなければ、障害者とみなされる人をどんどん増やしてしまうことになる」と指摘する。

そのため「学生には自分の潜在的な能力を高めていくことに取り組んでほしいし、企業側もそれを見て能力を活かせる仕事と結びつけてほしい。双方の努力が必要だ」と締めた。

青島百花