今回は、社会学専攻の木下衆先生にインタビューをし、よく似ている専攻の1つである人間科学専攻との違いや、社会学専攻の魅力などについて伺った。
―社会学専攻と人間科学専攻の違い
これら2つの専攻を混同している学生は多いのではないだろうか。共通点は、どちらの専攻も社会学・文化人類学・社会心理学の3つの分野から成り立っており、広くソーシャルサイエンスを学ぶことができる点だという。一方相違点としては、社会学専攻はインタビューやフィールドワークなどの社会調査、人間科学専攻は実験や統計に重点を置いていることにあるようだ。社会学専攻では、個々人の主体的な選択の結果、あるいはその選択をする意思や気持ちはどこから来るのかというような、実験ではコントロールできない、様々な要素が絡み合ったものを扱う。それに対して、実験や統計も重視しているのが人間科学専攻である。ただ、社会学専攻の中でも選択必修科目である社会調査では、統計的なデータを処理することもあるため、社会学専攻において全く統計を扱わないというわけではない。あくまでも何に重きを置いているのかという違いだそうだ。
―社会学専攻だからこそできること
木下先生は、社会学専攻において共通するキーワードに「文化とライフ」を挙げた。実験できない事柄に重点を置く社会学専攻では、自分も含めた個々人の経験・時間の重なり、すなわち人生を丹念に見ていくことができる。実際卒業論文は、個々の人生を丁寧に見ていきながら、人生の中で「なぜその選択をしたのか」、「なぜその感情を抱いたのか」などの論理を引き出そうとするものが多いそうだ。
―専攻の楽しいところ
木下先生は「前提として、学問・研究するにあたって、楽しいテーマばかりではない」と語る。社会学専攻では、「差別」「病気」「介護」など社会における辛い・暗いテーマを扱うことが多い。確かに、それらのテーマ自体は辛いかもしれない。しかし、そのうえで「辛い・暗いテーマをとことん突き詰めて考えることで、新しい視点や気づきを得ることができる」と話した。
加えて、先生は社会学の面白さについても触れた。社会学はそもそも社会規範に注目する学問である。社会には、法律で規定されていないことでも暗黙の了解とされていることが多くある。それらの暗黙のうちに了解されている社会規範を、解明していくことが社会学の面白さの一つだという。
―専攻の大変なところ
どの専攻にも共通して言えることであるが、卒業論文はやはりみんな苦労して書き上げるそうだ。社会学専攻の場合、特に卒業論文を執筆するために行う社会調査に苦労が伴うという。というのも、社会調査は人を相手に行うものである。そのため、自分の都合だけでは動けず、相手の都合やその他の条件などさまざまなことを考えながら調査をする必要があるためだ。他に、統計的なデータ分析やインタビュー、フィールドワークを行う社会調査科目(選択必修科目)も苦労する学生が多いそうだ。
―社会学専攻に所属する塾生の雰囲気
木下先生は、「文学部生は慶應生の中でも悶々としている」と語る。そのうえで「社会学専攻の学生は特にその傾向が強い。しかし、そのように言語化できず悩み、悶々としている中でも、機嫌良く勉強してくれている」と話した。
―塾生の卒業後の進路
卒業後の進路は人によってさまざまであり、社会学専攻だからといって特定の分野に強いということもないそうだ。ただ、卒業生皆に共通して、ゼミの活動や卒業研究を通じて、自分や相手の考えを言語化する力が伸びるという。
―社会学専攻を目指す塾生に期待すること
「文学部全体に言えることでもあると思うが」と前置きしながら、木下先生は「答えを急がないこと」、「人を思いやること」、「自分を大切にすること」の3つを挙げた。ある問題に対しての答えは、そう簡単にすぐには出ない。だからこそ、答えを急がず、相手の状況を気にかけ思いやりを持ち、自分自身のことも大切にする必要があるのだ。
木下先生は、「専攻の志望理由書は自分のやりたいことを言葉にする練習である」と語る。専攻決定には競争がつきものだが、先生の言葉のように、専攻の選択を自分と向き合う機会だと考え、過度に身構えすぎずに志望理由書作成に取り組むことが重要だ。この記事が、専攻に迷っている読者の専攻選択の一助になれば幸いである。
(峯和香)