例年、慶應塾生新聞会では文学部専攻分けの書類提出を前に「文学部専攻企画」と称して学部2~4年生へのアンケートや教授への取材を行っている。
今回は、全専攻の中でも特に志願者数の多い社会学・人間科学・美学美術史学・英米文学の4専攻の各教授にインタビューした。
美学美術史学専攻では、日本の古代・中世仏教彫刻史がご専門の佐々木康之先生に話を聞いた。
―特色や強み
慶大の美学美術史学の歴史は、森鴎外による「審美学」の講義まで遡る。美学美術史学専攻で扱う研究領域は主に三つあり、美の本質や価値について探求する「美学」、美術作品がいつ、どのようにできたか等を考察する「美術史学」、美術館などの芸術組織の運営について学ぶ「アート・マネジメント」である。これら広い領域を統合して学ぶことのできる専攻は珍しい。他大学では美術史が歴史学の一部とされることが多いが、慶大では哲学の一分野として位置づけられている点が特徴的だ。このように幅広い視点から美を探究する環境は、新しい考え方を学ぶきっかけを学生に与えている。
―学生の雰囲気
美学美術史学専攻は、文学部の専攻の中で募集人数が最も多い。男女比は女性が多めで、真面目な学生が多いとのことだ。佐々木先生のゼミはアットホームな雰囲気で、ゼミ旅行はまるでサークルのように和気あいあいとしているという。旅行先は、博物館や美術館、寺院など、美術作品に関連する場所を自分たちで決める。
―美学美術史学専攻に来る塾生に求めるスキルや知識
塾生に求めるスキルについて、特に明確な条件はないとのことだ。ただし、作品に対する興味を持ち、現存しない作品に対しても想像力を働かせることができる人が歓迎される。現存する作品にはそれに影響を与えた別の作品があり、作品が現存するか否かに関わらず、作品の系譜を読み取ることが重要なためだ。また、美学美術史学専攻では原典講読をするにあたって語学が重要であり、やりたいことが決まっている場合、その分野に関連する言語を履修しておくことが推奨されている。例えば、ルネサンス美術に興味がある場合は、イタリア語を第二外国語で履修しておくことがおすすめとのことだ。
―日本の仏教美術をどのように教えているか
佐々木先生はかつて美術館で学芸員を務めた経験から、大学での学びと美術館での鑑賞体験の違いを指摘する。「美術館は、それを見たいと思う人が訪れる場だが、大学ではいかに興味を持ってもらうかが重要」と語る。また、仏教美術を宗教的な対象としてだけではなく、創作物として分析する視点を身につけることも、大学の学びならではの特徴だ。そのため、ゼミでは展覧会訪問や寺院の見学を通して、実物の作品に触れる体験を重視しているそうだ。
―卒業後の進路
卒業後の進路は一般企業への就職が多い一方で、学芸員や美術関連の仕事に進む人もいる。学芸員資格の取得には大学院への進学が必要だが、美術館の事務や広報など他の形で美術に携わる道もある。また、佐々木先生は「美術は非言語的な表現であり、今も昔も共通する人間の普遍的な精神性に触れることで、感性を磨く学問」と話し、専攻での学びが学生の感性を深めるものであると強調した。
―学生へのメッセージ
「大学生活の4年間は、非効率的なことにも挑戦できる特別な時期」と佐々木先生は語る。効率性を追求しがちな現代社会において、あえて効率を度外視した学びに没頭する経験が、新たな発見と成長をもたらすという。「興味のあることを学び吸収できるという学生の特権を生かして、その結果見えてくるものを大事にしてほしい」
(和田圭太)