10月27日、三田の貸し会議室に落語研究会のメンバーが集結した。三田祭で行われる慶應寄席で2年生が披露する大舞台「トリ」に向けた練習(以下、トリ練)では、後輩の落語を先輩部員が批評する。弊紙は、全5回のうち4回目のトリ練を見学し、部員の内田尊人さん(法3)と中村凜太郎さん(法3)に話を聞いた。
初めて落語が評価されるトリ練
慶大の落語研究会(以下、落研)は、約70年の歴史を持つ大学公認団体で、約40人の部員から成る。週に一度の練習活動のほか、小学校や老人ホームなどでの口演依頼を受けつけている。七夕祭や矢上祭にも出場しており、中でも一番の大舞台は2年生がつとめる三田祭の慶應寄席でのトリだ。トリ練の最後の練習会で2年生は3年生に採点され、その順位を元に三田祭での発表日が決まる。大トリは日曜日の夜に披露する。トリ練は、落研の活動で唯一、落語に優劣がつけられる機会だという。
本番さながらの緊張感
27日のトリ練では、1年生から4年生までの10人の部員が集まった。トリ練が始まると、開始前の穏やかな雰囲気とは一変し、荘厳な雰囲気になった。緊張感が走る中、まず披露したのは中村さんだ。テーブルの上に正座をして本番さながらのスタイルで練習がスタートする。トリ練披露中、3年生は練習の動画撮影、時間管理、批評の役割にそれぞれ分かれ、記録を行う。部員は真剣な面持ちで鑑賞するが、「クスグリ」と呼ばれる笑いを誘う部分では笑いが沸き起こった。
批評会は様々な意見を交換する場
中村さんの落語終了後、批評会が始まった。今回批評を行ったのは3人。中村さんの落語中に細かくメモをとり、良い点や改善点を共有した。批評会では、落語本編の前に行われる世間話「マクラ」の内容から、本編に至るまで、漏れなく気づいたポイントを共有する。先輩3人それぞれの視点から批評が行われ、笑いを取る「クスグリ」に関する提案や、表情や身振りの指摘など、一般の観客が気づかないような細かい点に着目していた。先輩からの批評を受ける間、後輩は先輩の言葉を聞き逃さないようにメモを取る。興味深いのは、後輩が先輩のアドバイスを全てそのまま鵜呑みにしていない点だ。先輩のアドバイスと後輩の意思に相違があった場合は、後輩は自分の考えを説明し、先輩側も後輩の考えを尊重する。
万人に響く落語にするために批評会がある
批評会終了後、中村さんは「先輩からのコメントをどう咀嚼していくのか」という問いに対し、こう答えた。
「アドバイスを受けた時は、自分の落語の方向性に合っているかどうかを考慮して、取捨選択している。全てを受け止めるのではなく、アドバイスの本質部分を自分の中で抽出して応用している」。
また、先輩の内田さんは「昨年のトリ練で先輩から言われた『20秒に一回クスグリを入れる』ことを意識して後輩にも伝えている」と話し、先輩から受け継いだアドバイスを後輩にも伝授している姿が見られた。
批評会の良さについて、二人はこう語る。
「批評会の良い点は、普段あまり交流がない先輩からの意見も聞ける点だ。あえて自分とは違う方向性の考えからインスピレーションをもらう。三田祭には老若男女が集まるため、万人にウケるネタを披露したい。批評会は、万人に響くネタかどうかを確認する良い機会だ」。
インタビューの中でもクスグリを交えて和やかな雰囲気づくりをする二人の姿が垣間見えた。
(高梨怜子)