少子高齢化に伴う労働者不足の加速に伴い、外国人労働者の受け入れを拡大している日本。世界各国で移民問題への意識が高まりつつある中、日本の移民政策の展望について、慶大のスペイン現代政治・社会、移民を専門とする深澤晴奈准教授に、「スペインの例から何か学べることはないか」について話を聞いた。2024年度における日本国内の外国人労働者数は約204万人で8年間で2倍に達した(厚生労働省)。日本が移民に対して開放的である今、今後の日本の移民政策について考えていくことが必要不可欠だ。移民受け入れ国として世界的に名をはせるスペインの例を挙げ、移民問題に迫る。

 

モロッコからやってくるスペインの移民たち

スペインでは1986年のEU加盟を契機に移民の流入を拡大してきた。スペインへの移民は生活水準の改善を求めて出稼ぎに来る経済移民と紛争などから逃れてくる難民に分けられる。ヨーロッパへの移民には、アフリカ大陸から渡ってくる者が多い。スペインにおいてもモロッコからくる移民が最も大きな割合を占めてきた。この理由について、深澤先生は植民地時代などの歴史的背景や距離が近いといった地理的背景が挙げられると話す。

 

人権を重視するヨーロッパ諸国の移民への対応

欧州の移民増加の背景に、ヨーロッパの高い人権意識も影響しているという。例えば、アジア圏などであれば不法移民を不法侵入した犯罪者と捉える国が多いが、ヨーロッパではそもそも不法移民をすぐさま犯罪者と位置付けず、名称も非正規移民と捉えようとするそうだ。移民を保護される対象と認識し、必ずしもネガティブな認識を植え付けないように努めているという。また、移民に対するサポートも充実している。難民認定までの期間、移民を収容する施設も人権に配慮した整備が整えられているなど移民にとって手厚い支援がされる。逆にこういったことが欧州の移民増加に影響を及ぼしていると批判されることもある。

 

欧州で高まる反移民運動

しかし近年、ドイツでは極右政党AfDが躍進したり、フランスでは極右政党の国民連合が第一党になったり、ヨーロッパ全体で排外主義の台頭がみられる。こうした現状ではスペイン国内で移民を迫害する動きも懸念されるが、深澤先生は「移民が我々の職を奪う」といった排外主義的主張はただの言説に過ぎないと語る。その理由は、これまで国内の経済発展に大きく寄与し、これからも貢献し続けると考えられる移民を排除するのはそもそも考えにくいからだ。そこで彼らが排そうとするのは文化や価値観の衝突が存在すると考えているムスリムなのだそうだ。ただ、2010年前後の欧州経済危機とその後の景気停滞気を経て、ここ10年間にはスペインにおいても急進右派政党が国政で勢力を伸ばすようになっている。

 

注目が集まる社会統合政策、必要なのは相互の理解

近年、日本は少子高齢化の影響により深刻な労働人口不足に陥っている。日本政府はこの事態を打開すべく、これまでの消極的な姿勢を改め、移民の受け入れを拡大する方向にむかっている。そして2024年現在、少なくとも主要都市において外国人労働者を見ない日はない。実際、厚生労働省によると日本で働く外国人労働者は2023年10月の時点で204万人余りと、もうすでに移民大国と呼べる立ち位置だ。

しかし、こうした現状とは裏腹に国内での外国人に対する不信感は未だ高いままである。この問題を緩和するには「国レベルでの社会統合政策がなされるべきだ」と深澤先生は言う。社会統合とは、慣習や文化の異なるもの同士が相互理解を高める目的で行われる政策である。特にスペインはこの社会統合政策を積極的に推し進めている。例えば、スペイン語の習得を促し移民をスペインに適応させる政策がある。同時に国民にも働きかけ、移民との生活で起きる不和を解消すべく話し合いの場を設けるといった政策がなされているようだ。日本では国全体での社会統合政策が未だなされていないという。この政策がおろそかにされると、過去にフランスで起こったように移民出身者への差別が一因で暴動にまで発展したような事態も発生しかねない。これを防ぐには、単に移民を日本に適応させるだけでなくスペインのように国民にもベクトルを向けた双方向からの統合を図ることがより効果的だという。

 

求められる取り組み「移民の社会的な上昇」に向けて

このほかに、将来にわたって優秀でより多くの移民を受け入れるためには、移民も社会的な上昇をするという認識が重要だという。現在、日本における外国人労働者というと低賃金かつ重労働で働くという印象が強く、特に悪名高かった技能実習生などは「現代の奴隷労働」と呼ばれることもあるそうだ。こういった搾取状態では、日本政府の目的でもある「高度人材」の獲得とは裏腹に、日本が移民にとって劣悪な労働環境であることを世界中に知らしめることになる。したがって、現状の外国人労働者の待遇から見直していくべきだという。実際に、スペインでは移民が社会的上昇を遂げて、スペイン人よりもお金を稼ぐというケースが多々出てきているようだ。

日本ではそもそも公式には「移民」の受け入れはしておらず、外国人労働者の受け入れ数と相反して、国内での受け入れ体制は未だ混迷状態である。他国の先例をもとにこの状況から抜け出す取り組みがなされるのかに注目していきたい。

李涓在