城北三田会70周年式典の様子
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7月6日、豊島区池袋のホテルメトロポリタンで城北三田会70周年式典が行われた。城北三田会は東京都の城北地域(豊島区・板橋区・練馬区・北区)を拠点とする地域三田会だ。1954年に設立され、今年70周年を迎えた。初めは「目白三田会」として発足し、「豊島三田会」へ一度改称したのち最終的に「城北三田会」となった。都内で一番の歴史を持ち、70年間断絶することなく活動を続けてきた。約80名が参加し、慶應義塾常任理事、医学部三四会会長、連合三田会前会長なども参列した。早稲田大学卒業生の同窓会組織である稲門会からの参加者もいた。伊藤公平塾長によるビデオメッセージのほか、医学部教授による講演や現役塾生によるコーラスの披露なども行われた。各々が食事を取りながら歓談を楽しみ、終始和やかなムードで式典は幕を閉じた。
三田会とは、慶應義塾大学卒業生の同窓会組織のことだ。慶應義塾を象徴する存在としても世間で有名な三田会だが、会員の高齢化や若手不足といった問題を抱えているという。三田会の現状とこれからについて、城北三田会9代目会長の木川るり子さん(昭55法)と幹事長の渡辺晃司さん(昭61経)にお話を聞いた。
福澤の精神受け継ぐ象徴
福澤諭吉の唱える社中協力の精神にのっとり、1880年に初めて開かれた同窓会が三田会の起源だとされている。福澤諭吉が逝去すると同窓会組織強化が図られ、1902年に交詢社で「三田会」が発足したのを機に全国各地で三田会が誕生するようになった。今では日本のみならず世界各地にさまざまな三田会が存在し、多くの塾員が所属している。非常に強固な結束力を持ち、社会に影響を及ぼす組織として慶應義塾を象徴する存在となっている。「三人寄れば三田会」という言葉もあり、卒業年度、地域、職域、企業、部活やサークル、趣味など多くの種類がある。塾員で無くても入会できる三田会もあるなど、ルールは各三田会で異なっている。これらを統括するのが慶應連合三田会と呼ばれる団体で、慶應義塾とはまた異なる組織となる。
若手不足に悩む三田会の現状
現在、三田会をめぐる問題として高齢化と若手不足があげられるという。城北三田会では会員の大多数が昭和の卒業生となっており、同じような状況の三田会も多いという。若手が不足し世代による価値観の変化などによって現役塾生との関わり低下している。SNSなどが発達した現代で三田会に入会し活動に参加するメリットが少ないと考える人や、伝統や形式を重んじる雰囲気を好まない人も多い。また多くの塾生が三田会と直接的な関わりを持たないまま卒業する。ほとんどの三田会では卒業生のみの入会が認められており、現役塾生が入会することは出来ない。若い世代が三田会に対して興味を持つようなきっかけがほとんど無いという。特に地方の地域三田会では深刻で、参加者が少ないことを理由に稲門会と合同で活動をしているケースもあるそうだ。現在、慶應義塾大学入学者の首都圏出身者割合は7割から8割となっており地方出身者減少の傾向も原因の一つとなっている。
若手を取り込む 城北三田会の取り組み
こうした若手不足に対応するため、城北三田会では今年、現役塾生が入会できるよう規約を改正した。ほとんどが卒業生のみの入会を認めている三田会では異例の対応といえる。現役塾生から入会の申し込みがあったことで決断に踏み切ったそうだ。学生のうちから三田会に参加してもらえるよう、時代に合わせた対応が必要だと話す。また、数年前から指定寄付奨学金の給付を始めた。指定寄付奨学金は慶應義塾大学内の奨学金制度の一つで、主に各三田会からの寄付によって成り立つ。城北三田会では年額10万円の給付を経済的事情のある採用者に対して行っている。多くの三田会が慶應義塾に対して寄付を行っており、かつては城北三田会も大学施設に対して寄付を行ってきたが、モノへの寄付から人への寄付へ転換するという方針のもと、奨学金給付を始めたそうだ。実際に給付を受けた学生と話したときは意義を感じられたという。学生時代に受けた恩恵を、将来的に三田会の活動や後輩に還元してくれれば嬉しいと話す。
若手不足解消のためには、こうした時代に合わせた対応を三田会全体に広げていく必要があると二人は言う。一方で、各三田会による対応だけでは限界があるのも事実だ。塾生と三田会の関わりが希薄となっている現状の根本的解決が求められる。三田会の存在は慶應義塾の価値を構成する重要な要素でもある。塾生と三田会の接点を生む機会創出のために、大学も当事者となって積極的に協力してほしいと話す。若い世代が参加できる三田会を作ることで慶應義塾の発展につなげたいという。
現役塾生へ向けて
「社中協力」は福澤諭吉の教えの一つであり、三田会はまさにそれを体現したものだ。慶應義塾ほど強固な卒業生のコミュニティを持つ大学はなかなか無く、ビジネスのみならず私生活においても多くのメリットがある。そんな同窓のコミュニティである三田会を「第二の故郷」だと木川さんは話す。社会で多様な活躍をする塾員と身近に接することができる場は、塾生や若い塾員にとっても非常に価値のあるものだ。若いうちから三田会に参加することでしか得られない経験をしてほしいと二人は話す。
(稻山昂大)