去年7月、慶大SFC研究所ベースボールラボとJICAが派遣連携を締結し、本年度から活動を本格的に始動予定だ。プロジェクトでは、2024年から3年間体育会野球部員を中心とした関係者をガーナへ派遣し、スポーツの魅力を通じて平和な社会実現を目指す。今回は、プロジェクトについて慶應義塾大学ベースボールラボ代表の加藤貴昭教授と昨年度野球部副将の小川尚人さん(システムデザイン・マネジメント研究科1年)に話を聞いた。
アフリカ諸国では、現在もまだ十分な経済インフラが発達しておらず、世界中のすべての人々に平和と健康が保障されている状態ではない。そこで、JICAが掲げるグローバルアジェンダ「スポーツと開発」に焦点を当て、具体的なプロジェクト内容に迫る。
きっかけは野球教育活動
この活動の発端は、一般財団法人を立ち上げ、30年ほど前からアフリカで野球教育をしてきた友成晋也さんの活動が元になっているという。そして、大学の研究の枠組みとして、人間の非認知スキルを調べようとしたことが始まりだ。非認知スキルとは、知能検査や学力検査では測定できない能力を意味しており、 具体的には、やる気、忍耐力、協調性、自制心などがあり、人の心や社会性に関係する力のことをいう。
プロジェクトの目的のもう一つには日本式野球を広めるということがある。日本式野球教育には、試合前にお互いに挨拶や礼をするといった、相手を敬い、他国にはない日本人の礼儀を尽くす姿勢が現れている。日本ならではの良さを、活動を通してたくさんの人に伝えたいという思いがある。今回の派遣では、6人の現役部員と、小川さんを含む4人の大学院生やOBの計十人がガーナへ渡航予定だ。到着後、1週間以内にガーナ人コーチと練習メニューを考え、その後首都アクラ付近の4地区に分かれて野球指導を行うそうだ。派遣メンバーに加え、何人かプロ選手もプロジェクトに協力している。
日本式野球の良さ・文化を広め、人間の非認知スキルを調査する
プロジェクトを通して一番大切にしたいことは、野球の技術を向上させること以上に、野球を通して人間性を変化させるということだ。人と円滑にコミュニケーションを取るためにはどうすべきか、チームとは何なのか、相手をどう敬うのか、などといった点に気づけるようにすることがこの活動の本意である。人間の非認知スキルは野球を通してどう変化するのかを検証するために、心理的特性が1ヶ月後、1年後にどう変わるのかを調査するそうだ。今回、人材開発という観点から、自分はまだ成長できる、最後までやり抜こう、というモチベーションが人間の非認知スキルの変化にどう影響してくるのかを明らかにしていきたいという。十分な教育環境が提供されていないガーナでは、規律や尊重、正義などの非認知能力を育む機会が乏しいと言える。本プロジェクトを通して、彼らの非認知能力がどのように変化していくのかを調べる。
アフリカ全国甲子園大会の開催に向けて
このプロジェクトをガーナだけではなく、他国に普及するための取り組みについて加藤教授は、まずはきちんと第一回目である今回の派遣でしっかりとエビデンスを残すことを大切にしていると語った。今後の取り組みの参考にするために、効果があったことを記録することに注力するようだ。
また、現在J-ABS(アフリカ野球・ソフト振興機構)が中心となり、ケニアやタンザニアなどアフリカ55カ国で「甲子園大会」を開催している。野球が国際的に貢献できるスポーツであることを示し、将来的にはアフリカ全国大会の開催を目指しているそうだ。そこで現在、資金調達のためクラウドファンディングを行なっている。支援のお礼品には、ガーナ甲子園大会のライブレポートURLや横断幕への名前記載などがある。クラウドファンディングのページには、プロジェクトの具体的な活動内要や、派遣メンバーの意気込みが写真と共に紹介されている。
子供たちに野球を楽しんでもらうために
最後に、小川さんにプロジェクトへの参加理由を聞いてみた。一番の決め手は、自分が小学生の頃からずっと続けてきた野球を通してアフリカへ行ける機会なんて滅多にない、と思ったからだそうだ。自分が研究を進める教育学や組織マネジメントにこのプロジェクトは強い関連性あり、何よりも前例がないことに挑戦し、自らが貢献できる点に魅力を感じたという。活動を通しての目標は、ガーナの子どもたちに野球を教えることでこのプロジェクトに参加して良かった、と思ってもらえるような活動をすることだと話した。
(吉田乃永)