何種類ものアンテナや無線を使いこなす「無線工学研究会」。早慶戦を陰で支えるなくてはならない存在だ。その「無線工学研究会」にサークル活動やアマチュア無線の魅力などについて話を聞いた。

 

無線工学研究会様のサークル活動について教えてください。

無線工学研究会の活動は主に送信系と受信系に分かれています。

送信系の活動では、主に2点の活動を行っています。

1点目は、アマチュア無線を用いて交信活動を行っています。直近では、デンマークとの交信も成功させました。

2点目は、応援指導部からの依頼を受け、早慶戦において、音響を担当しています。

観客席や吹奏楽部席などにスピーカーやマイクを設置し、応援の展開に合わせて、音量バランスの調整を行っています。

受信系の活動では、主に海外の短波放送を受信しています。塾生会館の屋上にあるアンテナの向きなどを調整することで、海外からの電波も受信しています。また、電波だけでなく、フライトレーダーや人工衛星から発せられる天気図などのデータも受信しています。

それ以外にも、無線を用いた活動だけではなく、センサーなどの電子工作を行っている部員もいます。さらに、無線機を使用する他のサークルに対して、無線の使い方や機械などについての相談にも乗っています。

 

アマチュア無線とその魅力について教えてください。

アマチュア無線とは、営利目的ではなく、専ら個人的な興味によって行われる無線通信のことです。一言で言うと「電波を使った遊び」です。

アマチュア無線の魅力は主に4点ありあます。

1点目が、誰と繋がるかわからないところです。携帯電話やインターネットとは違い、アンテナの種類や気象条件などによって繋がる相手が変わります。その不確実性が面白さの1つであると思います。

2点目は、移動運用です。移動運用とは、普段の無線機常設場所を離れて、高台や車内から無線交信を行うことです。高いところでは電波の送受信がしやすいため、景色を楽しみながらの交信や、旅行とも組み合わせることができる点も魅力だと思います。

3点目は、モールス信号です。モールス信号は音声よりも遠方と交信しやすく、海外との通信は特に印象的です。現在では、モールス信号が実用される機会は少ないですが、今でも、アマチュア無線家の中では根強い人気があります。

4点目は、有名人と繋がる可能性がある点です。タモリさんや宇宙飛行士の若田光一さんなど有名人の中にも、アマチュア無線家がいるため、このような人たちと繋がることができる点も魅力の一つだと思います。

また、魅力とは異なりますが、災害時に重宝されるというのも特筆すべき点です。アマチュア無線家は、日本各地に点在し交信をしているため、災害時に基地局が機能不全になったとしても、通信が完全に断絶されることがありません。実際に、東日本大震災の際には、アマチュア無線家による交信によって、孤立していた小学校が救助されたという事例もあります。

 

無線通信には資格が必要ですが、アマチュア無線技士の資格について教えてください。

アマチュア無線資格は4級から1級まであり、級が上がるにつれて、いろいろな周波数で、強い電波を発することが認められます。試験問題は、全級共通で無線工学と法規の2分野で構成されています。第3級アマチュア無線技士程度であれば、小学生でも試験に合格できるくらいで、非常に簡単です。過去問付きの問題集も出版されていますので、文理問わず、簡単に取得することができます。

 

塾生会館屋上の八木アンテナ

 

無線工学研究会様の歴史について教えてください。

無線工学研究会は慶應義塾大学理工学部の前身である藤原工業大学の創立(1939年)と同時期に誕生し、80年以上の歴史を誇ります。このように慶應義塾大学の中でも歴史あるサークルです。

 

無線工学研究の大変なところを教えてください。

大変な点は主に3つあります。

1点目は、交信する時間帯によって、相手を見つけることが難しいです。特に海外との交信する際には時差を考慮することが必要です。そのため部室には、日本と世界各国との時差がわかる地図を貼っています。

2点目は、アマチュア無線技士の取得級によって、出力できる周波数が異なってきますので、制限された周波数の中で、交信を成立させることも大変です。

3点目は、海外と交信する際は、ノイズがとても多く、ノイズの中で英語を聞き取ることや、ノイズを減らすための機材の調整が大変です。しかし、聞こえそうで聞こえない交信をいかにキャッチするかが面白いところでもあると思います。

 

海外との交信にあたって、言語の壁にはどう対応されているのでしょうか?

基本的には、英語圏でない国と交信するときは、お互いに英語で話すのが一般的です。

また、アルファベットや数字を用いた略語「『セブンティースリー』で『さよなら』など」があるため、海外との交信においてもある程度交信しやすい環境づくりがされています。

 

無線工学研究を通じて得られるものを教えてください。

無線工学研究を通じて、得られるものは主に3つあると思います。

1点目は、早慶戦や三田祭などのイベントにおいて、無線機の運用能力を活かすことができる喜びです。無線や機械などに対する豊富な知識がイベントにおける円滑な運営につながっていると自負しています。

2点目は、アマチュア無線技士の資格を取得するにあたり、無線機や電波などに関する基礎的な知識もサークル活動を通じて習得することができます。

3点目は、海外など遠距離交信が成功した時に、たとえそれが他の部員が行ったものであっても、遠方まで電波が届いているという喜びを得られる点です。

また、本会は無線やアンテナなどの設備が非常に充実しているとともに、無線交信にあたって必要となる免許等の申請などもサークルとして行っているため、手軽に活動に参加できます。

 

無線工学研究会様の今後の展望について教えてください。

今後の展望としては主に3点考えています。

1点目が、日吉の部室からでは、交信出来ない場所が生まれてしまいます。そのため、

今後は、移動運用の機会を増やしていき、普段部室からでは交信出来ない方とも交信をしていきたいと思っています。

2点目が、アンテナから取り込んだ信号をパソコンに取り込み、解析するというソフトフェア無線が近年注目されており、無線工学研究会もソフトフェア無線について勉強してきたいと考えています。

3点目が、先ほど言及した、災害通信にもある程度知見を深めていきたいと考えています。

 

最後に、塾生へのメッセージをお願いします。

無線工学研究会は今年度の新入部員の9割以上がアマチュア無線の未経験者です。

そのため、無線を扱ったことのない方も興味を持って参加していただきたいと思っています。また、アマチュア無線だけでなく、通信系のシステムや機械などに興味がある部員も多いです。通年入会を受け付けていますので、通信や機械に興味がある方はぜひ入会をご検討ください。

 

これまで、アマチュア無線は趣味の範囲であると考えていた。しかし、取材を通じて、災害時の非常通信などアマチュア無線が社会で果たす役割の大きさを痛感した。

また、無線工学研究会のメンバーには文系も多いので、文系学生も気負わず、「無線工学研究会」に足を運んでもらいたい。

大世古葵