慶應義塾高等学校(以下、塾高)の敷地内に、アメダス観測所が設置されていることをご存知だろうか。塾高出身でなければもちろん、塾高出身であっても、日吉のアメダス観測所を知っている塾生は多くない。塾高の地学教室に取材し、日吉にアメダス観測所が設置された経緯とその活用に迫った。
塾高に設置されているアメダス観測所
アメダスとは、気象庁が運用する「地域気象観測システム」のこと。日本全国に約1300 カ所ある観測所から、自動で気象データが収集されている。神奈川県内では、日吉のほかに横浜や小田原、箱根、平塚など11カ所にアメダス観測所が設置されている。
塾高の敷地内に設置されているアメダス観測所は、1975 年5月16日に運用を開始した。来年5月で50周年を迎える歴史ある観測所だ。アメダス観測所には、降水量のみを観測するものと、四要素(降水量、風向・風速、気温、湿度)を観測するものがある。塾高のアメダス観測所は降水量データのみを計測するタイプで、収集したデータは自動で地方気象台に送信されている。
なぜ塾高の敷地内にアメダス観測所が設置されたのか。経緯を探ると、塾高と気象観測との深い関係を知ることができた。
アメダスの運用が始まるより前から、塾高は気象台から気象観測を委託され、収集した気象データを提供していたとい
う。塾高には、古いもので1953 年の気象観測データが残っている。塾高のスタッフが横浜地方気象台へ赴き、研修を受けて気象観測に従事していた。いわゆる「区内観測」という制度で、アメダス観測所が気象観測を始めるまでは、気象台から委託・依頼を受けた役所や学校などが気象観測の一部を受け持っていた。塾高も「区内観測」を担う区内観測所の一つだったようだ。その縁があって、アメダスが運用を開始したときに、日吉の塾高敷地内にアメダス観測所が設置されることになったそうだ。
特別な許可を得て塾高敷地内のアメダス観測所に入ると、草地に降水量を観測する装置が置かれていた。地面に跳ね返った水しぶきを入れないため、少し地面から離れた位置に受水口がある。受水口の周囲には助炭(じょたん)と呼ばれる風よけが取り付けられており、強風時にも正確に降水量を計測することができる。また、内部にはヒーターが組み込まれており、雪やあられを溶かして降水量を計算できるようになっている。簡単なつくりのように見えて、降水量をできるだけ正確に計測できるように工夫されている。
取材では、地学研究会の観測野帳も見ることができた。研究会の生徒が学校に泊まって、気象観測をつける合宿をしてい
た時期があるようだ。1時間ごとに天気、降水量、風向・風力、気圧や湿度などを丁寧に記録しており、気象観測への熱意が伺える。アメダス観測所とは直接関係はないものの、塾高に受け継がれる探究志向の一つの表れかもしれないと感じさせられた。
慶應、塾高と気象観測には深い関係があった。その関係は、今もアメダス観測所というかたちで続いている。日本の気象
観測の一部分を日吉のアメダス観測所が担っていることを覚えておきたい。
(竹之内駿摩)