生理(月経)とは人の約半数が経験するものだ。
それにもかかわらず、未だ「オープンな話題にするべきではない」「迷惑をかけないように自分で対処するのが当然」と認識している人も多いのではないか。
女性である私は、生理が社会においてないものとされていると感じてきた。例えば、小学校のときに女子だけが集められて、先生から生理の話をされた。このような経験から、生理とは女性特有のもの、隠すべきものだと認識させられてきた。
一ヶ月に一回、ほとんど確実に体調を崩す経験をする人が人口の約半数存在するにもかかわらず、社会には生理に関する十分な理解や制度がない。これは社会が、「健康な男性」を想定して作られてきた結果ではないか。

そもそも「生理=女性」という表象は誤りである。女性にもさまざまな身体の状態があり、生理が起こらない女性も存在する。その人は生理がないからといって、女性でなくなるはずがない。

また、ノンバイナリー(男女いずれかの二元的な性別に持続的に自分の性別を当てはめない人)、トランスジェンダー男性(出生時に割り当てられた性別は女性だが、ジェンダーアイデンティティは男性の人)にも生理のある人は存在する。

 

そもそも生理(月経)とは

卵巣は月に一度排卵する。排卵の際には受精に備えて子宮内膜が厚くなる。受精しなかった場合は子宮内膜がはがれ、身体から排出される。この不要になった子宮内膜の排出が月経と呼ばれる現象である。
生理の周期は、個人差はあるがおよそ一か月程度。出血は一週間程度続く。経血(月経時に排出される血液や子宮内膜)の量は2日目が一番多く、3日目から徐々に減っていく人が多い。
生理に伴う症状は様々である。生理中には生理痛(子宮の過剰な収縮による下腹部や腰の痛み)、頭痛、胃痛、貧血などが起きる。
また生理前にはPMS(月経前症候群)が起こることもある。PMSとは生理の前に3~10日間続く精神的・身体的症状の総称だ。精神的にはイライラ、情緒不安定、憂鬱など、身体的には肌荒れ、頭痛、むくみ、腹痛、胸の張りなどが起こる。
生理にはこのような体調不良が伴うため、生理前や生理中の数日間は平常通りのパフォーマンスができないと感じている人が多い。スポーツの大会、旅行、試験などが生理期間と被る場合はより深刻である。

 

「生理の貧困」 慶大生にも 慶大「Breezeプロジェクト」とは

慶大では、ダイバーシティ関連の取り組みを担う「協生環境推進室」が2021年に「女性のからだ支援~Breezeプロジェクト〜」を立ち上げ、「女性のからだ」に関する支援と情報発信を担う。
現在は個室トイレや多機能トイレで生理用ナプキンを無料提供するサービス「OiTr」の導入や、生理用品の無償配付、専門の医師などによる講演会「からだセミナー」などを実施している。
プロジェクト発足のきっかけは2021年、コロナ禍で初めて行った生理用品の無償配付だった。事務長代理の中峯さんは「『コロナ禍の一人暮らしで家計が苦しく、生理用品が買えず困っている』という切実な学生の声に衝撃を受けた。まさに『生理の貧困』という状況」と当時を振り返る。「生理の貧困」とは経済的な理由で生理の対処が困難になることを指す。
無償配付は現在も継続して行われている。内容は配布した学生へのアンケート結果を反映しており、現在は年に4回、それぞれ多い昼~ふつうの日用羽つき8個入りを1パックと夜用400羽つき3個入りを2パック配布しているという。一年に使う生理用品は約240枚だといわれているが、その約4分の1をカバーする計算だ。

 

「からだセミナー」 婦人科へのためらい解消

「からだセミナー」では主に婦人科系の問題を専門に講演会が開かれてきた。
生理痛が日常生活に支障をきたす場合は「月経困難症」の可能性があり、婦人科を受診すれば低用量ピルや漢方薬、ミレーナなどの適切な治療で症状を軽くすることができる。しかし、婦人科は馴染みが薄く敬遠されがちである。
「からだセミナー」では例えば、「婦人科はどんなところ?」「婦人科はどんな時に行けばよいか分からない」などの悩みに答え、婦人科医などから院内の様子や行くべきタイミングを解説した。参加者からは「婦人科へのためらいが無くなり、何年も悩んでいたことが治療で解消できた」という反響があった。

「からだセミナー」は男性やトランスジェンダー、性分化疾患(※注)などについても取り扱ってきた。パートナーや家族について知りたいという理由で参加する男性もみられるそうだ。

 

生理を不可視化しないために

日本の企業や学校は、学んだり働いたりする主体として「健康な男性」を想定してきたと私は考えている。生理のある人はその「健康な男性」基準に合わせることを強いられ、不調を隠し、我慢してきたのではないか。
社会が「女性」の社会参加を求めるのならば、生理を「女性」の自己責任にするのではなく、社会がその負担を担わなければならない。しかし、たとえばほとんどの教育機関では生理休暇は認められていない。
慶大にはそもそも大学として「公欠」という制度はなく、公欠を認めるかどうかは授業の担当教員の判断にゆだねられている。生理休暇という制度も存在しない。
たとえば、生理で家から出るのが難しい日にオンラインで授業を受けられるようにする制度を作れば、生理以外で体調がすぐれない生徒の学習機会を保障することにもつながるのではないか。大学、ひいては社会は、「健康な男性」を想定するのではなく、より多様な人を想定し制度を作っていくべきだと考える。

 

※注

性分化疾患(DSDs:体の性の様々な発達:Differences of sex development)とは、X・Y染色体の構成や、卵巣・精巣などの性腺、外性器の発達、膣・子宮などの内性器、性ホルモンの産生などが、男性ならば普通こういう体の構造のはず、女性ならば普通こういう体の構造のはずとされる固定観念とは、生まれつき一部異なる発達を遂げた男性・女性の体の状態を指す。なお「インターセックス」という用語は当事者から忌避されることがほとんどであり、使うべきではない。

LGBTQ+と混同されることがあるが、これはDSDsを持つ人の大多数にとって、危険な誤解・偏見となる。DSDsとは「女性・男性にもさまざまな身体の状態がある」ということであり、「第三の性別」ではない。(DSDsを持つ人の中にも、そうでない人と同様に、マイノリティとしてLGBTQ+も存在する。)詳しくはこちらから。DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)とは? | ネクスDSDジャパン:日本性分化疾患患者家族会連絡会 (nexdsd.com)

 

 

山浦凜