今回で連載・第15回目を迎える「慶應生の本棚」。数々の名著・話題作を、慶大生の視点から紐解き、紹介してきた。だが、少し真面目すぎやしないだろうか。時には少しふざけて…いや、くだけて、ポップな作品を紹介するのも良いと思うのだ。
ということで、今回は、アメリカのアニメーション作品『ハズビン・ホテルへようこそ』(2024年)をご紹介する。
え?なんだって?「慶應生の“本”棚なのに、アニメーション作品が紹介されるのは禁じ手」だと?まあ良いじゃあないか。試しに1話見てみなよ、保証する。君の“本棚”が一つ豊かになるさ!
※本作品は、R18+に指定されている。カートゥーン調のアニメということもあり、生々しい描写はない。とはいえ、ポルノやドラッグ、犯罪、グロ描写があるので、苦手な方は要注意。
地獄へようこそ!〜あらすじと概要〜
罪を犯して死後”悪魔”になった罪人が住む地獄。しかし、人口過密となった地獄では、人口を減らすため、年に一度、天使たちが“エクスターミネーション”を行なっていた。地獄の王女・チャーリーは、この大虐殺に心を痛め「悪魔たちを更生させる」という大胆な計画に挑む。彼女は、強大な力を持つ“ラジオの悪魔”アラスターの助けを得て、”ハズビン・ホテル”を開業する。悪魔たちが改心<チェックアウト>することを待望して、個性的な仲間たちと共に奔走するチャーリーだが…。
地獄を舞台とし、登場キャラクターのほとんどが悪魔である本作。「大人向けのカートゥーン」を謳い、センシティブな描写が含まれる一方で、ミュージカル・アニメーションという性質も併せ持つ。アメリカの若手アニメーターである、ヴィヴィアン・メドラーノが創作・共同脚本・監督・製作を手掛け、2019年にパイロット版が公開された。
かなり濃密な設定なので、エピソード1〜3までは、ついていくのが大変かもしれない。しかし、後半になるにつれて、どんどん面白くなっていくのが、本作の魅力。ぜひ完走してほしい。 また、パイロット版も作品を理解する上で重要なので、本編視聴前に必ずチェックしよう。
ちなみに、吹き替えと字幕で日本語訳が微妙に違うのだが、その両方を表示して鑑賞するのがオススメ(特にミュージカルパート)。吹き替えと字幕のコンビネーションを利用することで、もとの英語のニュアンスを体感しながら、よりスムーズに作品の内容を理解することができる。
奇抜な設定と個性的なキャラクター、ミュージカルが交錯する地獄の”リデンプション”
アメリカで製作され、キリスト教的な世界観がモチーフとなっている本作。地獄の住人を更生させるために、ホテルを開業し奮闘するというアイデアは、なかなかに奇抜で面白い。また、作品に登場するキャラクターには、各々に悩みや凄惨な境遇があり、感情移入待ったなしだ。地獄における、差別や偏見といった社会悪を克明に描き出している点も素晴らしい。
そして、何よりも注目すべきなのが、ユーモアに溢れるキャラクターの台詞回しとテンポの良いストーリー進行、毎エピソードに必ずある完成度の高いミュージカルパートである。特に、エピソード7における、チャーリーのタップダンスは、アニメーションのクオリティの高さを実感できる。
さらに、主人公のチャーリーが”バイセクシュアル”だったり、パートナーのヴァギーが”レズビアン”だったりと、多様性にも配慮されている本作。カートゥーン調で描かれた、個性的なキャラクターの数々が登場することで、独特な世界観が一層引き立って見える。
なんだって?エンジェルがエロすぎる…だと?それは言わないお約束だよ、子猫ちゃん。ニャ〜オ。
信頼と友愛のヒューマンドラマ
とりわけ印象的だったのは、エピソード4。エンジェルによる突然のカミングアウトは、衝撃的だった。彼は、”契約”によって、雇い主であるヴァレンティノに支配され、文字通り嬲られ続けていたのだ。「明日が見えない日々」「(演技して)自分を守っているんだ」という悲痛な叫び、そして自分の想いをひたすら隠し、気丈に振る舞おうとする彼の姿は、オーディエンスの胸を打つ。エンジェルの告白の後、バーテンダーのハスクが、彼の苦しみに向き合い、同じ”負け犬”として、寄り添うミュージカルパートは必見である。
この作品、まさかのヒューマンドラマだったの…。主要人物は悪魔だから、”ヒューマン”と表現するのは、適切ではないかもしれないけれど。何はともあれ、控えめに言って感動。合掌。
ここまで来れば、エピソード8まであっという間だ。
更生プログラムが上手くいかないことに焦る、チャーリー。“エクスターミネーション”まで、残り数ヶ月。父・ルシファーとの再会。果たして、チャーリーは、この難局を乗り越えることができるのだろうか? 続きはぜひ、ご自身の目で確かめていただきたい。
おわりに
今回は趣向を変えて、米・アニメ『ハズビン・ホテルへようこそ』をご紹介した。
この作品の魅力は、一風変わった“ブラックコメディ”でありながら、社会悪の蔓延る不条理な地獄<せかい>で悩み、足掻き、立ち向かう罪人<もの>たちの“ヒューマンドラマ”だという点にある。また、必死に更生を目指す“悪魔”と、時には自らの保身のために虐殺をも厭わない “天使”のどちらに、道徳や美徳があるのかという、いわば“正義の在処”を問うストーリーに仕上がっており、作品名やキービジュアルの雰囲気とは裏腹に、かなり深い内容となっている。
筆者は、カートゥーン調のアニメに対して苦手意識を持っていたが、意外にも、本作品の世界観にマッチしており違和感なく視聴できた。というか、カートゥーン要素なきハズビン・ホテルはありえない。最高。
『ハズビン・ホテルへようこそ』はAmazonプライムで配信中。気になった方は是非ご覧ください。あ、ちなみに、私はAmazonの回し者じゃないですよ。では、また。
(髙梨洸)
☆『ハズビン・ホテルへようこそ』のパイロット版は、以下のリンクから視聴可能だ。
・英語版:https://www.youtube.com/watch?v=Zlmswo0S0e0
・日本語版:https://www.youtube.com/watch?v=voYG2NrU5iQ&t=205s
☆『ハズビン・ホテルへようこそ』の本編は、Amazonプライムで。
・https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0CLM9XG3F/ref=atv_dp_share_cu_r
☆公式webサイト(英語):https://hazbinhotel.com
☆公式X(英語):https://twitter.com/HazbinHotel