6月からの新連載は「ダイバーシティ」がテーマだ。慶大内のマイノリティ当事者や専門家を取材し、その現状を可視化する。
慶大には外国人も「障害者」も性的少数者もいる。地方出身者も女性もいる。多様性が叫ばれて久しい昨今、皆さんはどれほどそれに実感があるだろうか。
「人権=思想強い」?
こんな風潮がある。「思想強い」という言葉でマイノリティの権利の主張を揶揄したり、敬遠したりするものだ。
「フェミニズムは過激だ」「LGBTは権利を主張しすぎだ」。果たしてこの態度は正しいのか。マイノリティの訴えは「思想強い」=極端だとして偏見を持たれたり、矮小化されたりして良いのか。違うはずだ。社会は「普通でない」とされた少数派の人々を不当に排除している。
マイノリティが権利を求めるのは「思想強い」からではない。現に生じているマジョリティとの不平等と、それに伴う困難を解消したいからだ。
トランスジェンダーとして
私自身、マイノリティとして不平等を感じている。
例えばネットでバイトの申し込みをしようとする。個人情報記入欄に「性別」の必須項目があるが「男・女」の二択しかない。私は「トランス男性」である。戸籍上は女性だが、改名やホルモン注射による声と見た目の変化により「男性」と判断される機会が増えた。
私はどちらの性で申告すべきか。バイト先はなぜ性別を問うのか。男女別の制服や更衣室か。
仕方なく「男性」にチェックし、面接でカミングアウトする。難しい顔をされ、結果は不採用だった。その理由は分からないが、確かに言えるのは当該のアルバイトがトランスジェンダーの雇用を想定していないということだ。
性別欄に「その他」があれば(あるいは性別欄がなければ)私はマジョリティであるシスジェンダーと同じ条件で応募できたはずだ。
生活に直結する「人権」
以上の経験から「性別欄に『その他』が欲しい、あるいは性別欄を無くして欲しい」と訴えることは「思想が強い」のか。決してそうではない。性的マイノリティであることが就労不安になる社会は、明らかに差別的だ。
マイノリティは生活に直結した権利を求めている。「思想が強い」と揶揄されるような非合理な主張はしていない。
マイノリティはそれぞれ特別な事情を持ち、抑圧されている。しかし私たちは、他者がどのような困難を抱いているか知る機会が少ない。知識がなければ、マイノリティの主張を急進的だと理解してしまうこともありうる。だからこそ具体的で特殊な困難が周知されなくてはならない。それこそが、私たちがこの連載を開始する理由だ。
第一回は「生理(月経)」
次の第一回目は「生理(月経)」というテーマで掲載予定だ。
人の約半数は生理を経験する身体だ。しかし今でも生理はタブー視され、しかるべき支援がされていない。
「生理とは何か」という基礎知識から、生理用品の経済的負担、月経前症候群(PMS)なども取り扱う予定だ。
読者の皆さんが、ぜひ私たちと問題意識を共にし、学んでくださると幸いである。新連載がマイノリティの塾生に光を当てるものであることを望む。
(飯田櫂)