締め切りが迫っている文学部専攻分けの書類提出。進むべき専攻に悩む1年生が参考にできるよう、慶應塾生新聞は「文学部専攻企画」と称して2・3年生へのアンケートや教授への取材をおこなった。
今回の企画では、史学系専攻(日本史学、西洋史学、東洋史学、民族学考古学)の各教授にお話を伺った。史学系専攻特有の内容だけでなく、大学での学びに関するお話も聞くことができたので、ぜひご一読いただきたい。
日本史学専攻では、日本中世史がご専門の中島圭一教授にお話を伺った。
まず、日本史学専攻と似た専攻(民族学考古学・国文学・美学美術史学)の違いを聞いた。
そもそも日本史学では、手紙、公文書、日記など文字で書かれた「史料」を用いて日本史を紐解き、いわば伝統的な歴史学をおこなう。一方で、民族学考古学では遺構や遺物などの文字ではない「考古資料」の研究や発掘調査を通して歴史を研究する。日本史学と民族学考古学は、共通して本来は政治や社会を中心に扱っている。
他方、国文学や美学美術史学では主に作品自体や作者について研究する。国文学であれば文学作品の作者や時代背景を、美学美術史学では絵画や彫刻のスタイルや作者を研究対象とする。
歴史を政治や社会などマクロな視点からみるなら日本史や民族考古学、個々の文学・美術作品などミクロな視点からみるなら国文学や美学美術史学が適しているというわけだ。
つづいて、日本史学を志望する学生に期待することを伺った。
中島教授は「もちろん、日本史に興味のある学生が来てほしいです」と前置きしたうえで、すべての学問に共通する学びに関する話をされた。中島教授によると、日本史学とは探偵のようなものだという。史料に基づき、犯人(歴史上の人物)や犯行の様子(その人物の行動)を推論する。この合理的・科学的思考はほかの学問を研究するうえでも必要になるそうだ。研究対象は違えども、根本的なものの考え方は同じ。日本史学専攻の門戸は広く開かれている。
学生の進路についても伺った。
歴史に関連した進路としては、出版社・ゲーム会社(戦国ゲームの企画開発)・博物館の学芸員・教員などがあるようだ。
ただしこれらの職業を選択する学生は数としては少なく、多くは一般就職だそう。また、大学院へ進学する学生は毎年1桁人数程度とのことだ。その目的は学芸員資格や教員免許の取得、研究職志望などさまざまである。
つぎに、学生の興味関心に対応するための工夫について聞いた。
まずは古代から近現代まで各時代を専門とする教員をそろえ、さらに各時代の史料の取り扱い方を教えられる教員を置いているという。史料は古代・中世・近世・近現代の時代区分によって異なった背景事情があり、前提知識が必要なためだ。
また、経済史を専門とする教員が対外関係史や政治史を教えることもある。「経済は政治や外交に結びついており、教員自身論文を読んで知識をインプットするようにしています」と中島教授は話す。教員があまり詳しくない分野に関しては、適宜非常勤の教員を呼んで対応しているそうだ。
つづいて歴史を学ぶ意義を伺った。
「科学的なものの見方、論理的思考が身につくのは歴史を学ぶ一つの良さであり、大学で学ぶ意義でもあります」と中島教授は話す。日本史に絞れば、海外の人々と関わるうえで日本の歴史について説明できることは大切だという。国際的に活躍するうえで、日本史は基礎教養だといえる。また、旅行の際に観光名所の歴史を知っていればより楽しむことができる。さらに、近年情勢が不安定化する地域が多くみられるが、歴史を振り返り、争いの起こる過程を研究することで、紛争の展開をある程度予測し、状況をより正確に理解することに繋がる。
つぎに、日本史学専攻の大変なところ、楽しいところを伺った。「これは私より学生のほうがわかるんじゃないですかね」と笑う中島教授。
大変な点は、やはり史料講読だそうだ。どの時代を研究するにしても全時代の史料講読を学ぶため、旧字体や漢文を山ほど目にすることになる。しかし、学生が授業前後に集まって史料について話し合うこともあり、大変ながらも楽しい時間のようだ。
楽しい点としては、ゼミ旅行や見学会がある。ゼミによって頻度に差はあるが、中島先生のゼミでは、北は平泉や函館、南は沖縄・石垣島に出向き史跡や発掘現場を訪れたそうだ。さらに大学院生がいるゼミでは大学院生から豊富な知識を得ることもでき、充実した学びに繋がっているという。
最後に中島先生に専攻決めを控えた文学部1年生へのメッセージをいただいた。
「後悔しないように、好きなことややりたいことをやってください!」とのことだ。この記事が日本史学専攻をはじめ、史学系の各専攻を検討する読者の一助になれば幸いだ。
(村上怜)