現在、慶大文学部の1年生で、ピアニストの秋川風雅さん。テノール歌手の秋川雅史さんを父に持ち、幼い頃から音楽に親しんできた。今回は、幼稚舎から大学までの学生生活や、ピアノに対する思いを聞いた。
――音大ではなく、慶大に進学した理由を教えてください。
幼稚舎から慶應に入学しました。慶應には、色々な分野で夢を持っている人が多いです。そのような人たちと関わり合い、それぞれがどのような思いを持っているのかを考えながら生きていくことで、幅広い視野を持ったピアニストになりたいという思いで、慶大に進学しました。
――13年目になる慶應義塾での学生生活ということですね。特に印象に残っている思い出は何ですか。
幼稚舎の運動会です。運動が得意で6年間で4回リレー選手に選ばれたことが印象に残っています。幼稚舎は6年間クラスと担任が変わらないので、クラスの結束力や、クラス同士の対抗意識がすごく強くて。特にリレー選手になるために、みんながトレーニングをしていました。もともと身体を動かすのが好きで、今は毎晩父と一緒にランニングをしています。
塾高は男子校でしたが、大学では、やっぱり女子がいると楽しいです!
――ピアノと勉強を両立する上で苦労していることや、心がけていることはありますか。
今はピアノでかなり忙しいです。テスト期間は特に大変なので、毎週コツコツと課題をやっています。高校の時は、夜の9時までピアノを弾いて、それから夜ご飯を食べて勉強をすると遅い時間になってしまって。翌日の学校の授業は眠くなってしまうという悪循環で、本当に大変でした。
――ピアノとの出会いについてお聞かせください。
1歳頃から、父の膝の上に座って、人形が乗ったピアノのおもちゃで遊んでいたそうです。本格的にピアノを始めたのは3歳からで、それから毎年ソロのリサイタルを開いています。
――ピアノに対して、モチベーションを高く持ち続けられる理由は何でしょう。
まずはピアノが楽しいということ。そして、歌手である父を超えたいという野望があるのかな。父のように、ずっと音楽を勉強し続けたいと思っています。ずっと背中を追い続けたい人です。
――YouTubeで秋川さんの演奏を拝聴し、魂が込もった力強い演奏に魅了されました。秋川さんにとって、ご自身の演奏の魅力は何だと思いますか?
超絶技巧とパッションです。音楽の世界に出ていくためには 2つの要素が必要です。1つ目は「専門家に認められること」、2つ目は「素人に好まれる音楽を作ること」です。専門家は、テクニックや、どれだけ音楽を勉強してきたかを重視します。一方で、素人に好まれるのは「どれだけ音楽に魂が込められているか」で、僕はその方が得意だと思っています。今後は一度基礎に戻って、専門家から認めてもらえるような細かいテクニックを勉強したいです。
――表現力を磨くために普段から実践していることはありますか?
映画を見ることです。 映画を見ると、人の感情がよくわかりますよね。一番感動したのは、親と子の葛藤を描いた『チャンプ』というボクシングの映画です。映画を見始めてから、音楽に感情を入れ込むことができるようになったと思います。映画は感受性を豊かにしてくれる1つのツールです。
――6歳の時には、日本フィルハーモニー管弦楽団と演奏を行った経験もある秋川さん。大舞台に立つときに意識していることは何でしょうか。
まず、「緊張しない」と思うことですね。かつて一度、コンサートの時に「緊張する」と何度も口にしたことで大失敗をしてしまって。それからは「緊張しない」と言葉にすることで、上手く弾けるようになりました。
――「緊張しない」と思っていても、つい緊張してしまうものではないでしょうか。
確かに「緊張しない」と思っていても緊張しますね。緊張で、ペダルを踏む足がちょっと震えることはありますが、「本番でどんどん数をこなしていけばいい」と思って流しますね。そこは慣れです。
――普段、ピアノの練習はどのようにされていますか?
学校があるときは3時間か4時間ぐらい練習していて、学校がない時は 9〜10時間は練習しています。ピアニストの方に習いながら、普段は父も教えてくれます。僕は、音楽は全部「歌」だと思っているので、歌手である父からは、ピアノのテクニックというよりは、「歌心」を学んでいますね。
――「音楽は歌」とは具体的にどういうことでしょうか。
音が上に上がったら気持ちも高まるというイメージです。歌う時、地声から高い声に移すのはすごく大変ですよね。だけどピアノでは、音を高く上げようと思ったら鍵盤を「ぽんっ」と弾くだけでいい。父は、ピアノも歌と同じように、音を高くするには力が必要だということを教えてくれました。
――1番尊敬しているピアニストはどなたですか?
クリスチャン・ツィメルマンです。この方は一言で言うと、「完璧」。彼のCDはすべて世界一。ものすごくストイックな人で、CDの完成後に「自分の目指す音楽じゃない」という理由で発売をやめたこともあるそうです。とことん突き詰めて、彼みたいにパーフェクトにピアノを演奏できるようになれたらいいなと思いますね。
――「パーフェクト」な演奏とはどのようなものだとお考えですか?
大切なのは、音色(おんしょく)と「自然な音楽」、そしてテクニックですね。音色は、曲のイメージのことで、それに合った弾き方を導き出していきます。自然な音楽とは、波に乗っている音楽。ツィメルマンはこれらすべてを兼ね備えているので、どんな曲を弾いても一番です。
――これから新たに挑戦したいと思っていることはありますか。
新しいことは特にないかな。でも大学生らしいことをしたいなと思っています。大学生らしいことといえば、やはりサークル。「ワグネル・ソサィエティー男声合唱団」に所属しています。今まではソロのピアノや歌をやってきましたが、合唱団ではハーモニーの一部になることで、自分の音楽にも繋げられるのではないかと思い、入りました。男声のハーモニーって、ものすごく綺麗なんですよ。12月16日には池袋の芸術劇場で定期演奏会があるので、ぜひ聴きに来ていただきたいです。
――最後に読者の方々にメッセージをお願いします。
記事を読んでくださり、ありがとうございます。慶應で勉強とピアノを両立して、これからピアニストとして活動をしていきたいと思うので、応援よろしくお願いします。また、今の若者は、コロナで舞台の数が減ってしまったので、コンサートを開くことなどで、僕らのような若い人たちをたくさん応援してほしいなと思いますね。
(堀内未希)
【プロフィール】秋川風雅(あきかわ・ふうが)2004年東京都生まれ。ピアニスト。現在、慶大文学部1年在学中。父はテノール歌手の秋川雅史さん。2022年には同じく慶大在学中の八木大輔さん(文2)とのジョイント企画で、CDデビューを果たした。
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