聖書研究から生まれた最新技術
過去に慶應で起きた多くのビッグニュース。しかし現在それがどうなっているのか、というのはあまり報道されていない。そんな過去のニュースに焦点をあてるのがこの企画。第1回の今回は、「慶應義塾、グーテンベルク聖書を購入」(1996年)を取り上げる。
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グーテンベルクとは、15世紀に活版印刷術を発明した人物である。彼が印刷した世界初の印刷聖書が、グーテンベルク聖書である。グーテンベルク聖書は現在世界に48部しか確認されておらず、アジアで所有しているのは慶應だけである。各聖書は印刷後、顧客お抱えの装飾師によって装飾されたため、同じ物というのは存在しない。
グーテンベルク聖書が慶大にやってきたのは1996年。1987年に丸善がオークションで落札したものを、慶大が購入した。購入金額は正式には公表されていないが、約8億円と言われている。
グーテンベルク聖書購入の目的とは何だったのか。慶大は、稀覯古刊本(歴史的価値のある古い書物)の鑑定基準を作るため、1996年に文科省から5年間の補助金を得て、プロジェクトを立ち上げた。これがHUMIプロジェクトである。その研究対象として、グーテンベルク聖書を購入したのだ。
因みにHUMIプロジェクトのHUMIとは「Humanities Media Interface」、つまり「人文科学研究における新しい情報伝達手段の導入」の略称である。
稀覯本を研究する際、そのまま扱っていると本はすぐに傷んでしまう。そこで提案されたのが、当時まだ一般的ではなかった「書籍のデジタル化」だ。デジタル化をすることで、直接稀覯本を用いる機会を減らし、傷むのを抑えることができる。ただし貴重な本であるため、スキャニングにも工夫を要した。当時の最高技術が用いられ、グーテンベルク聖書は高精細にデジタル化されていった。
グーテンベルク聖書の研究を基に、稀覯本の高精細なデジタル化の手法が確立されていった。その画像を公表すると、世界各国のグーテンベルク聖書保有者から撮影依頼が寄せられたという。それにより、比較検討等の書誌学的研究が可能になっていった。
慶應版の来歴はまだまだ明確ではないが、48部の聖書の来歴もさまざまで数奇な運命をたどったものもある。
代表的なのものは、ナチス・ドイツの手をのがれ、欧米各地を転々とし、戦後にポーランドに戻ったというペルプリン神学校図書館版聖書で、「さまよえるグーテンベルク聖書」といわれている。この聖書のレプリカ作成には慶大がデジタル撮影で技術協力している。このレプリカを含め、慶大では5種のレプリカを所蔵している。
代表的なのものは、ナチス・ドイツの手をのがれ、欧米各地を転々とし、戦後にポーランドに戻ったというペルプリン神学校図書館版聖書で、「さまよえるグーテンベルク聖書」といわれている。この聖書のレプリカ作成には慶大がデジタル撮影で技術協力している。このレプリカを含め、慶大では5種のレプリカを所蔵している。
現在慶大のグーテンベルク聖書は、美術品倉庫で保管されている。昨年様々なイベントに出展されたため、休ませるためにしばらく出展することはないという。グーテンベルク聖書自体の研究は、購入当初に比べるとだいぶ落ち着いてきている。だが、その研究から生まれた高精細デジタル化技術の基礎などは、今も様々な面で生かされている。
(大竹純平)