8月16日は「電子コミックの日」として制定されていることをご存じだろうか。今回は、この記念日にちなみ、電子コミックサービスで高いシェアを誇る「Renta!」の運営会社、株式会社パピレスの松井康子社長に話を聞いた。社長の学生時代から、デジタル技術が進化し続ける今後の展望まで幅広く迫る。

パピレス経営までの道のりと信念

パピレスは富士通のベンチャー事業の一環として生まれた企業で、主に書籍の電子化を行なっている。入社当時の松井社長は慶大の院に通っており、研究と両立させる形で、院生時代に入社したという。 東洋史学を主な研究分野とし、イスラム文化を中心に学びを深めていた。

松井社長 が現在大切にしている価値観のひとつに「人々の、あったらいいよね、という思いに寄り添う」との考えがある。院生時代に研究に使う参考文献を探していた時、目当ての文献にたどり着くことに手間がかかり、頭を悩ませていた。しかし、海外では既に文献などの多くがデータベース化されており、 インターネットを介して誰もが閲覧できるシステムが整備されていることに気づいた。そこで松井社長は、日本でも資料の電子化をするべきだと考え、既に電子化に着手していたパピレスへ入社を決めたという。

入社した直後は、数人で夏目漱石などの名作を地道にデジタル化する日々が続いた。しかし、SF作家からのデジタル化への共感は大きく、文学作品から漫画へと事業を拡大できた。これが上場と社長就任への第一歩となった。
この経験を通して感じたのは「先んじてやること」の大切さだ。特に昨今では、技術革新が凄まじい速さで進んでいる。そんな中、この波に乗れるかどうかは、「やるかやらないかだけだと思っている。最初からうまくいくことはないのですぐに結果を求めずに。」と松井社長は鋭い眼差しで思いを語った。

コンテンツの海外進出

松井社長は、今後の事業展望として、さらなるコミック文化のグローバル化を目指す。現状導入している、スマホに特化した縦画面で繋ぎ目なく読むことができる「たてコミ」や、アニメ風にキャラクターや背景が移り変りながら物語が展開される「アニコミ」を海外にも発信していきたいと話した。

現状として、台湾では現地作品をメインに取り扱い、アメリカでは日本の作品を取り扱うなど、国によって個別の戦略をとっている。各国の特徴を分析した上でのさらなる作品や文化の普及を目指す。そして、たてコミやアニコミといった既存コンテンツに加え、動画編集と人工知能などを取り入れるような、新しいデジタル技術を活用した、コンテンツ開発にも力を入れたいと意気込みを語った。

AI時代を生き抜く電子コミック

では、デジタルコンテンツである電子コミックは、AI時代と呼ばれる現代においてどのように存在していくのか。クリエイティブの一端を担うコンテンツを扱う者としてこの動きをどう捉えているのかを松井社長に聞いた。
AIにクリエイティブな側面での職業が代替されるのかについては、まだ人間の活躍する場面は多く、「最終的には人間が、これでいいのかと判断する必要がある」としている。実際の編集現場においても、海外版に向けた翻訳作業や、コミックへの色塗り作業などの一部の業務では既にAIの技術を導入している。また、クリエイティブな創作のためには、思考のベースとなる素材をAIにインプットする必要がある。その点で、元となる資料の検証や、その生成物が売れるのかの検討が必須であり、完全に代替されることはないと考えている。

逆に、人間が情報収集をする上では、莫大な情報量を要約できるAIは有効活用できるという。将来的にAIと電子書籍がどのような融合をしていくのか注目したい。

最後に、塾生へのメッセージを求めると、「やりたいことをやっていけば充実していく。だからぜひ諦めずに続けることを忘れないでほしい。」目まぐるしく変わる世界だが、その中でも自分のやりたいことに素直になって、決して諦めないことが、自分の人生を充実させることにきっとつながるのだと松井社長は塾生に思いを語った。

(株)パピレス代表取締役社長 松井康子さん

坂本健斗