2021年1月、前年の大統領選挙における不正を訴えて前大統領ドナルド・トランプ氏の支持者たちが議会議事堂を襲撃した。この事件には、「Qアノン」が深く関わったとされ、注目を集めた。

朝日新聞社、藤原学思記者は、早くからQアノンに注目し取材を続けてきた。日本でも新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに「ワクチンは人口削減を目的としている」といった陰謀論がSNSを中心に広まった。藤原記者は、「事実は複雑なもの」だと語る。陰謀論がもはや日本とは無関係ではなくなった今、藤原記者にアメリカでの取材経験をもとに陰謀論に対する見解を聞いた。

 

なぜ人は陰謀論に惹かれるのか

Qアノンとは、Qという匿名の人物の考えに賛同した人々の集団だ。Qは2017年10月に匿名掲示板「4chan」に現れた。彼の主張は、「政治や経済はディープステートと呼ばれる秘密結社によって支配されている。トランプ元大統領はそれと戦う戦士である」といった荒唐無稽なものだ。なぜ、このよう言説を信じる人が現れるのか。藤原記者は、二つの理由を挙げる。一つは、新聞やテレビなどのオールドメディアの衰退と、SNSの発展である。SNS上の投稿に、私たちが「いいね」を押すと、アルゴリズムによって似たような投稿がおすすめされる。これによって、様々な意見に触れることが難しくなってしまう。もう一つは、「事実をわかりやすく、自分に都合のいい形で解釈したい」という願望だ。社会や環境に不満を持つ人が自分に都合の良い陰謀論に触れると、それを嘘だと否定したくなくなるのだ。

 

嘘の情報に踊らされないために

藤原記者は、SNSや匿名掲示板で嘘が拡散されてしまうのは、「嘘は事実よりも気持ちのいい言葉」だからだと話す。そして、嘘の情報に踊らされないためには、真偽の不確実な情報に出会ったときにその情報が流された意図を考えてみることが有効だとした。人が嘘の情報を流す理由は、金、名誉欲、承認欲求、そしてイデオロギーのどれかのためだという。

最後に、藤原記者から、塾生にメッセージをもらった。藤原記者は「様々な本、映画に触れてほしい。そして様々な人と交わってほしい。それが嘘に踊らされない一番の近道です」と話す。大学生活の間に多くを経験し、世界には様々な考え方を持つ人がいるということを知ることが重要だ。

陰謀論は、信じる人本人を壊し、次にその人の人間関係を壊し、最後に民主主義を壊す。社会に対する加害者にならないためには、自分に都合のいい情報を鵜呑みにしてはならない。

 

【藤原学思(ふじわら・がくし)記者】(写真=提供)

朝日新聞社国際報道部記者。慶大法学部卒2010年入社。現在は国際ニュースのほか、陰謀論や偽情報の取材。著書にQアノンを追ったルポ『Qを追う 陰謀論集団の正体』(朝日新聞出版)。

鈴木倫子