2019年末に感染が確認され、わずか数ヶ月でパンデミックと化した新型コロナウイルス感染症。緊急事態宣言による外出自粛をはじめとし、日常生活にも多大なる影響を与えた。
「コロナ禍で慶大はいかに変化したか」。さまざまな組織を取材すると、どの組織も困難を乗り越えるため工夫を凝らしてきたことが見えてきた。マスク着用が個人に委ねられるなどコロナ禍以前の生活が戻りつつある今、格闘の3年半を振り返る。
2020年から猛威を振るった新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、医学部は大きな影響を受けた。ただ、困難ばかりではなく教育方法の転機となった面もある。そこで今回は医学教育統轄センターの門川俊明教授に話を聞いた。
全講義録画に向けて
まずコロナ禍初期にはオンライン講義への移行が実施されたが、コロナ禍以前から全講義録画が準備されており、円滑に移行できた。門川教授は「学生が自分に合った幅広い方法で学習できれば良く、今後もオンライン講義をうまく活用していきたい」と話す。また当時は、オンライン講義の収録になれていない教員のためにスタジオを用意し、収録のサポート体制を整えた。すでに整備されていたプラットフォームにアップロードすることで迅速な対応ができたという。
困難となった臨床実習 新たな形で
一方、医学部生にとって重要な実技を学ぶ臨床実習に関しては、リスクを伴うため一時は中止し、オンラインでの実施となった。しかし、患者さんとの現場での学びが必須であることから、門川教授は生徒に声掛けをし、医学部生が率先して世界のコロナ対策に関する学術的な情報を発信するサイト「医療系学生のための感染予防指針」を開設した。その後、開設に携わった医学生13名は義塾賞を受賞した。こうして新たな形での実習を経験しながら、2020年の夏には現場での臨床実習を再開した。ただし、未だに実習は以前よりも制限があるため診療参加型の臨床実習を取り戻したいという。人と人との触れ合いによって得られるものの大切さは大きいと門川教授は話す。
対面試験の重要さの実感
もう一つ困難となったのは試験だ。対面での試験は不可能となった。医学部においては知識が重要なため、教員からはレポートよりも試験を望む声が多かった。オンラインで試験を行うことはできたが、インターネット環境などにより公平性を保つことが難しいといった問題も明らかとなった。
また、医学部1年生は日吉キャンパスの規制が適用され思うようにはいかなかった。そこで夏季休暇の際に1年生対象の「慶應医学ショーケース」を行い、同級生と初めて対面で講義を受ける機会を提供した。慶大医学部に入学したことを実感する貴重な機会となった。
国内だけでなく国外での学び
そして留学に関しては、国外での学習を大切にしたいと2022年から再開した。2022年は海外の医療機関で臨床実習する5年生は20名程度に制限されたが、2023年は35名と、コロナ禍以前の状態に戻り、2024年は47名が渡航する予定である。将来的にはより多くの学生に海外での学習に取り組んでほしいと門川教授は語る。
(増田リコ)