新型コロナウイルスの流行に伴う規制が緩和され、海外から留学生が続々と来ている。三田キャンパスでは留学生との交流を楽しむ塾生の姿も多く見られる。ただ、留学生が戻ったいま、コロナ禍に隠れていた課題が浮き彫りになった。
「日本人の友達が作れない」
香港中文大学4年生で、慶應義塾大学に交換留学生として派遣されたAさんは「日本人の友だちが作れない。留学する前は、授業で作られると思ったが、ディスカッション型の授業が少ないので難しいと思う」と話した。当初期待した留学生活と多少の齟齬があるのは仕方ないと感じながらも、日本人学生と交流できない現実を受け入れるしかないのではないかと、悲しそうな表情を見せた。
国際センター塾生機構(KOSMIC)は、日本人側にも国際交流にハードルがあるという見方を示した。KOSMICなどの学生機構に所属していない限り、国際交流を望んでも、留学生と関わる機会が得られないことが多い。また、留学生には留学生の、日本人には日本人のコミュニティーが存在し、「なかなか双方がつながっていない」と話した。
大学内に形成される「留学生村」
一般社団法人留学生支援ネットワークの事務局長である久保田学さんは、留学生の在籍する学部学科に偏りがあるため、いわゆる「留学生村」が形成され、日本人コミュニティーとの交流が希薄になっていると指摘した。久保田さんは「以前に比べて日本人のコミュニティーに積極的に飛び込む留学生が少なくなっている印象を受ける」と話す。ただ、「日本人学生のコミュニティーが留学生を排斥しているわけではないので、留学生たちは能動的に日本人学生と関わってほしい」と語った。KOSMICも、交換留学生との交流を通じて留学生と友だちになることを目指す「慶應ともだちプログラム」などを活用している。今後は留学生が「留学生村」を抜け出す手助けをし、日本人のコミュニティーとつながることができるように支援したいという。
支援する立場で見えた課題は
留学生支援にあたって最も大切なのは「正しい情報を周知させること」だと久保田さんは強調した。留学生の資格外労働時間(アルバイトの勤務時間)は週28時間以内と決められている。しかし、日本で留学生としてアルバイトをすれば、無限に稼げるといった誤った情報が留学生の間で拡散した結果、トラブルに遭うケースも相次いでいる。日本で生活するために必要な生活費や、資格外活動時間に関する情報をきちんと伝えることで留学生がブラックバイトにだまされることを未然に防げる。
留学生の卒業・修了後の進路にも「壁」が存在する。久保田さんによると、留学生の6割近くが日本での就職を希望するが、就職に失敗している場合も多いという。理由として、日本の独特な就活文化を挙げた。海外の就活では、学歴や資格が重視される一方、日本では人柄や素養など潜在的な能力を重んじる企業が多い。留学生はその違いに戸惑うことが多いという。
また、教育機関は留学生を受け入れる時点で就職など留学後の進路を合わせて考えて欲しいと久保田さんは話す。留学生に不足している情報を教育機関が察知する必要がある。その一環として、一般社団法人留学生支援ネットワークは加盟大学に向けてポータルサイトを立ち上げたり、留学生に必要な情報を掲載した冊子を作ったりする活動を続けている。
グローバル化への対応に迫られているいま、国際センターやさまざまな留学生支援機構も、留学生を巻き込んだ交流イベントを開催するなど、もっと留学生たちが満足できる留学生活を送られるように努めている。今後、留学生が期待した慶應での留学生活との齟齬をなくすためには、留学生と教育機関両方の徹底した準備が欠かせない。