「大手には入りたいけど、まあ、転職前提だよね」。身の回りに、こう話す就活生はいないか。あなた自身が思っているかもしれない。「やりたい仕事」を実現したい。そのためなら薄給も厭わない。有名企業で実力を蓄えて、転職してからが本番だ。

「入社後に“こんなはずでは”と悩まないとも言い切れません。どの就活生も、結局は就労経験のない学生さんです」。警鐘を鳴らすのは、東洋経済新報社の青地俊亮さん。2022年から『就職四季報』シリーズの編集長を務め、就活生の動向に目を光らせる。青地さんは、近年の就活生を「転職を見据え、いかに成長できるかという観点で企業選択をする傾向にある」と分析する。「成長志向は良いですが、待遇を軽視すると後悔するかもしれません」

働きやすさを知るために活用したいのが『就職四季報』だ。「総合版」「女子版」は5000社の採用情報を詳細な項目ごとに掲載。有価証券報告書には記載されない総合職に限定した情報も含まれる。青地さんに、活用方法を尋ねた。

『就職四季報』編集長の青地俊亮さん
年収、3年後離職率。さらに侮れないのは…

特に注意したい項目は何か。最重要は平均年収だ。「転職する場合も、前職の年収がベースになることは多い」という。3年後離職率は働きやすさの指標になる。

侮れないのは男性の育休取得率だ。2024年度版では「女子版」のみの掲載だが「これほど企業ごとに差が出る項目はない」という。100%の企業もあれば0%の企業もある。青地さんは、「男性の育休取得率は多くを意味する」と指摘する。国内の育休取得率は女性は約8割で、男性は1割程度。「男性の取得率は、企業が従業員の働き方やライフイベントにどれだけ進歩的な考えを持っているか指標になります」

「総合版」サンプルページ 提供=東洋経済新報社 編集=慶應塾生新聞会
「女子版」サンプルページ 提供=東洋経済新報社 編集=慶應塾生新聞会
気になる企業をチェック

気になる企業を見つけたら『就職四季報』で確認するとよい。印象が変わるかもしれない。「就活では広報性の強いものや主観的な情報も飛び交います。客観的なデータのみ掲載しているのが『就職四季報』の強みです」と青地さんは語る。

説明会などで有給や育児休暇などの説明がされるかもしれない。「大事なのは、導入状況よりも利用状況」と指摘する。制度があっても利用しやすい環境があるとは限らない。

OB・OG訪問や口コミサイトから企業の雰囲気を調べることもできる。苦労を大げさに話したくなるのは人間の性だ。口コミサイトは、転職希望者が所属企業の情報を提供することで利用できる仕組みになっている。バイアスは否定できない。「様々な経路から情報を集めつつ、『就職四季報』では検証ができます」

 

「優良企業」との出会いも

働きやすさは知名度に比例しない。有名でなくても高い年収水準で各制度を揃えた企業はある。隠れた優良企業に出会えるのも『就職四季報』の強みだ。青地さんは、就活をうまく進める鍵もここにあると語る。「総合商社など人気業界や企業は倍率が50~100倍になることも珍しくないので、専願は危険です。落選する場合も常に念頭に入れて、“自分だけが知る優良企業”を早い段階で見つけておくべきでしょう」。隠れた優良企業は、4年の春から有名企業に落選した学生からの志望が増える。それ以前の段階で押さえておけると理想だ。

 

新「女子版」 は働きやすさを深掘 男性も活用を

『就職四季報』は1983年の創刊から40年近く就活生の支持を得てきた。「総合版」は総合職に関する情報のみ記載するが「女子版」には一般職の情報も含まれる。購入者はほぼ女性だ。青地さんは現状に問題意識を持つ。「男女で職種が異なるのが当然という時代に作られた表れです。今後は「働きやすさ・女性活躍版」に名称を改めて、働きやすさという観点でも企業を深堀りできるものにしていきたい」。住宅補助制度など、女子版には男性でも有益な情報が含まれる。11月に発売される「2025年版(25卒向け)」では、リモートワークの利用状況も女子版に盛り込む予定だ。「読み比べても発見があります。男性もぜひ活用していただければ」と呼びかけた。

和田幸栞