2023年3月、日吉キャンパス旧5号館跡地に、木造のパヴィリオンが誕生した。理工学部アルマザン・ホルヘ研究室が中心となり、学生自らが設計、施行したものである。なかに設置されたベンチに座り、うえを見あげると、白い帆のあいだから青空がのぞく。心地よい風がふきぬける開放的な設計で、早くも塾生の憩いの場となっている。

パヴィリオンは、コロナ禍で屋外空間の重要性が高まるなか、インフォーマル学習、すなわち正規教育外での学びを促進する目的で作られた。プロジェクトを主催した理工学部荒木文果准教授は、「教室での勉強の合間に、自然の豊かさや美しさに触れることで、学生生活のQOLが高まれば嬉しい」と話した。塾生のアンケートをもとに、今後も教職員と学生が協働して、日吉キャンパスの環境改善に取り組んでいく。

日吉のパヴィリオンがもたらす変化 生活環境への問題意識を

パヴィリオンは、仮設の建造物のことを指す。代表的なのは、万博で登場するパヴィリオンだ。短期間で施工でき、それまで何もなかった場所に突然巨大建築物が登場する。しばしば建築上の実験の場として機能するために、その斬新なデザインと大きさで人々を圧倒する。それゆえ、常設の建築物に比べて、人々の視覚に強く訴えかける効果を持つ。パヴィリオンの出現によって、周りの風景がガラッと異なって見えるのである。

今回、日吉旧五号館跡地に誕生したパヴィリオンは、塾生に二つの変化をもたらしている。まずは、私たちのキャンパスライフの変化だ。これまで学生の滞在場所は、四号館前の広場から食堂付近に集中していた。その混雑に辟易した学生も多いだろう。パヴィリオンの設置によって、人流がキャンパスの北側にも分散すれば、より心地よい大学生活が実現される。その変化は、パヴィリオン設置の主目的であるインフォーマル学習の推進につながる。それは、学校教育外の日常生活において、知識や技術を獲得する生涯にわたる学習を指す。パヴィリオンで、学生同士が交流したり、読書をしたりするなかで正規教育のカリキュラムでは得られない学びを体験できるのである。
さらに、このパヴィリオンは塾生のキャンパスに対する態度にも変化をもたらすことが期待できる。

パヴィリオンの完成後、5月10日に講演会&ワークショップ「日吉キャンパス パヴィリオン誕生とこれから」が開催された。ワークショップでは、塾生と教職員が日吉キャンパスの課題をあげ、その解決策を話し合った。意見交換することで漠然としていた日吉キャンパスの改善点が具体的な形で浮き彫りになった。今回のイベントを開催した荒木文果准教授は、インプットとアウトプットを兼ね備えた会を通して、学生がより主体的にキャンパスに関わろうとする意識をもち、豊かな学生生活が実現されることを期待する。「ワークショップを経て、キャンパスは所与のものと思い込んでいたが、こちらからの働きかけで、いくらでも変化する、可変可能性に満ちた場所である点に気が付いたという意見がありました。それは、学内に限らず、物理的・精神的な居場所を、自分で、より快適で有意義なものに変えられるのだという意識に繋がると思います。」
今後も、理工学部を中心とした日吉キャンパスでの計画は続く。2023年度は、塾生の声を反映させた仮設物の設置も模索中だ。一連の計画が塾生のキャンパスライフの向上や自分の過ごす場所に対する意識を芽生えさせるきっかけとなっていく。

開放的な作りで塾生の憩いの場に

(鈴木廉)