京都三大祭の一つ、賀茂祭が今月、京都市で開催予定だ。葵祭の通称で親しまれる賀茂祭は、上賀茂神社(北区)と下鴨神社(左京区)の例祭で、毎年5月15日に執り行う。新型コロナウイルスの影響を受け、規模を縮小していたが、今年は4年ぶりに都大路の行列「路頭(ろとう)の儀」が復活する。神事の継承にかける思いを上賀茂神社で広報を担当する中野瑞己氏に聞いた。

 

コロナ禍で規模縮小

賀茂祭は大きく三つの儀式に分かれる。宮中で天皇陛下が勅使を派遣する「勅使(ちょくし)発遣(はっけん)の儀」、上賀茂神社・下鴨神社の境内で行う「社頭(しゃとう)の儀」、行列で有名な「路頭の儀」だ。コロナ禍の3年間、約500人が京都の町を練り歩く「路頭の儀」は中止を余儀なくされたものの、重要な祈りの儀式である「勅使発遣の儀」と「社頭の儀」は毎年着実に営まれてきた。

勅使と宮司による賀茂祭の神事(=提供)

 

神事、粛々と

上賀茂神社の恒例神事は年間約70件。それぞれを決められた通りに行うことで、国家の安泰や繁栄を支えてきた。「神様や自然の恵みに感謝するのが、神職の大切な務めだ。今後は国や地域の繁栄に加えて、先人たちの思いを後世に受け継いでいきたい」と中野氏は話す。

社頭の儀(=提供)

 

困難を乗り越えて

賀茂祭は歴史上、たびたび困難に見舞われた。応仁の乱、幕末、太平洋戦争などの時期には、長年、行列が中止となった。

今回4年ぶりに、本格的な祭を開催できることについて、中野氏は、「今年も変わらず、粛々と神事を実行していくのみ」と気を引き締める。と同時に、令和3年度に行われた境内に近接する御薗橋の拡幅工事に伴い、一ノ鳥居前の宮前広場の再整備を行ったことに触れ、「再整備後初めて、行列を迎えることはとても楽しみ」と言う。「賀茂祭の神事にふれることで、1000年前の人と同じ空気を感じてもらえたら嬉しい」とも語った。

上賀茂神社には紫式部も参詣し、和歌を詠んでいる(=提供)

 

行列、締めくくりは馬

行列は午前10時半に京都御所を出発し、下鴨神社を経由して、上賀茂神社に到着する。行列の中でひときわ目を引くのは、天皇陛下の使いである勅使と、十二単をまとい、賀茂祭のヒロイン的存在である斎王代だ。

祭のクライマックスには、上賀茂神社の参道を、馬が走り抜ける姿も見られる。賀茂別雷神様が天から降臨するときに、「葵を飾って、馬を走らせ、祭をせよ」と神託したことに由来する。「走馬の儀をもって祭が無事に執り修められた意味を持ち、大変見応えがある」と、中野氏は強調した。

 

次世代への思い

賀茂祭は年に1度の行事だが、上賀茂神社は季節ごとに異なる味わいをもたらす。鎌倉時代から変わらぬ姿で建ち続ける数少ない神社の一つで、境内に流れる「ならの小川」のせせらぎの音、木から光が差し込む暖かさなどを、五感を通じて体感できるのが魅力的だ。

中野氏は、「日本を担う慶大生に、ぜひ参詣してもらいたい。写真映えするものはないかもしれないが、何もないところに、よさを見出してほしい」と話した。

ならの小川を渡ると、重要文化財の「楼門」が見える(=提供)

伝統文化に対する若い世代の関心が薄れていると言われて久しい。上賀茂神社では、インスタグラムでの情報発信を巫女が担当するなど、若者への広報に力を入れている。「賀茂祭の行列に大学生が参加しているように、興味を持ってくれる人も多い。現場にいる私たちは、粛々と神事を斎行すると共に、何をやっているかを積極的に発信し、伝承することが重要だ」と中野氏は語った。

文化庁の京都移転に伴い、京都への注目が高まる今こそ、賀茂祭や上賀茂神社へ足を運んでみてはいかがだろうか。

(菊地愛佳)