「理想の型」を持つ
しなる弓から放たれた矢は、28メートル先にある直径36センチの的をめがけ一直線に飛ぶ。
「9割5分は当てたい」と話すのは礒野晋作さん(政3)だ。昨年11月に開催された第57回全日本学生弓道王座決定戦で23年ぶりに優勝した慶大。同大会の決勝で20本中20本を的中させ、最優秀選手となった。
「運動神経がよくないから、野球のようなスポーツでは活躍できないだろう」と中学校入学以前からすでに悟っていた。そんな時に弓と矢だけで活躍する中学生を見て「かっこいい。これならなんとかなるかも」と弓道の世界に足を踏み入れた。
弓道は、ちょっとしたことでいい射になったり、逆に崩れたりするスポーツだという。
「いろいろ試してひらめいた時が好きな瞬間」。それが持続することもあれば、その場限りのこともあるそうだ。
崩れた時のために心がけているのは、「理想の型」を持つことだ。「いつもどおりに弓を引くために何をしなければいけないのかを練習で作り上げて、試合ではそれを1つ1つひたすらやりきる」
また、準備段階での妥協は大敵だという。「弓を引く前にやるべきことはたくさんある。それをちょっとでも手抜くと、簡単に外れてしまう」。普段の生活にもリンクする教訓を口にした。
そんな礒野さんに、「弓道は大好きですか」と尋ねると、笑みを浮かべながら「大好きです」と2回繰り返した。ほぼ毎日の練習で苦楽を共にする弓矢。「その時間は居心地がいい」ともらした礒野さんは今日も「理想の型」を追い求める。
(井上史隆)