2023年は劇団四季の創設者・故浅利慶太氏の生誕から90年、劇団四季の創立から70年という演劇界にとって節目の年だ。浅利氏が慶應大学在学中に憧れを抱いた、ジャン・ジロドゥによるフランス戯曲。その最高傑作のひとつといえる「オンディーヌ」が4月29日(土・祝)から5月6日(土)まで東京の自由劇場にて上演されている。

今回は、開幕を間近に控えた当作の舞台稽古に密着した。

 

舞台稽古は、これまで積み重ねた稽古の成果を確認しながら、舞台装置や照明、音響との最終調整を行う場だ。幕ごとに変わる壮大なセットはジロドゥによる言葉の美しさに拍車をかけ、観客を魅了する。水界の超自然的な能力をあらわにする、あっと驚く仕掛けにも注目である。

キャストは何度も同じ場面に向き合いながら、立ち位置や動作、手や足の角度までも微調整を続け、「オンディーヌ」の世界観を作り上げていた。

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今回の舞台写真(撮影=上原タカシ、友澤綾乃)

有限の中にある、はかない美しさ

「オンディーヌ」は1939年にフランスで初演を迎え、日本では1958 年に劇団四季で初演、2003年には自由劇場のこけら落とし公演として上演された。自由劇場では、実に6年ぶりの上演である。

 

物語は古びた漁師の家の場面から幕が開く。あとひと月で15歳、でも生まれたのは何百年も前という、水の精・オンディーヌ(野村玲子)は深い森の奥の湖畔で育った。ある嵐の夜、彼女は王国の騎士・ハンス(近藤真行)と出会い、たちまち恋に落ちる。彼らはともに森を出ることを誓うが、彼女が人間に近づくのを良く思わなかった水界の王(広瀬彰勇)は厳しい契約を結ばせる。それは「もしハンスが心変わりをすれば、彼は死に、オンディーヌは記憶を失う」というもの。オンディーヌはやがてハンスと生活を共にするが、彼女の天真爛漫な振舞いは人間社会には馴染まなかった。そうした中で、ハンスは以前の婚約者・ベルダ(坂本里咲)に惹かれていき……。

想いが通じてはすれ違う、オンディーヌとハンスの悲恋の物語だ。

 

ジロドゥの作品の特徴である、有限と無限の対比。人間と自然、ハンスとオンディーヌは永遠かのような恋に落ちるが、人間の愛には必ず死がつきまとう。それでも、そのときは相手がすべて。逆らえない自然の流れの中で、懸命に生きるはかなさに魅せられるものがあった。

 

浅利氏とジロドゥの出会い

20代の頃の浅利慶太氏(提供=浅利演出事務所)

浅利氏が惹かれ続けた、ジロドゥの作品。彼とフランス戯曲との出会いは、3期生として入学した、慶應義塾高校時代にあった。同校の英語教師には、当時、芥川比呂志氏などと文学座に在籍していた加藤道夫氏(1918~1953・慶大文学部英米文学科卒)がおり、彼から演劇を学んだ浅利氏は大いに影響を受けた。この恩師との出会いがあったからこそ、彼は演劇に目覚め、のちに劇団四季を創立することになる。当作は彼や劇団四季の原点ともいえる作品なのだ。

 

浅利氏も学んだ、慶大・三田キャンパスから自由劇場まではわずか一駅。また、今年のゴールデンウイークは久しぶりに休講となる。この機会に劇場に足を運んでみてはいかがだろうか。

「オンディーヌ」

日時:2023年4月29日(土・祝)~5月6日(土)

場所:自由劇場(〒105-0022 東京都港区海岸1-10-53)

チケット:全席8,800円(税込)

主催:浅利演出事務所/協力:劇団四季

公演の詳細はこちらから

 

(加藤萌恵)