全塾ゼミナール委員会は昨年9月29日から南校舎ホールで業界講演会を開催していた。将来の展望を定め、学問研究の充実をはかることを目的とする本講演会は、今回で26回目を迎える。各業界の大手企業の方々を招いたこの講演会は、昨年の11月29日まで対面・オンラインハイブリッド方式で開催された。

銀行業界(株式会社三井住友銀行)

各業界で実際に活躍する方々が登壇する業界講演会。11月17日は銀行業界を代表して三井住友銀行(SMBC)に勤める慶大OB・OGが登壇し、銀行員の仕事やそのやりがいについて講演した。

まず登壇したのは入行して10年目の栗原さん(経済学部卒)。現場のイメージについてSMBCの事例を取り上げながら、「銀行員の仕事は顧客への融資を精査する受動的なものと思われがち。しかし実際は顧客の事業内容や商品について徹底的に調べ上げ、課題や経営戦略を提案する、自律的で能動的な仕事」と語った。栗原さんは銀行業を「未来を企て導く」仕事と表現し、その社会における役割について、「変化の激しい環境の中で顧客のニーズは複雑化している。銀行は銀行だからこそ持つ様々な情報を以て顧客をサポートする役割を担う」と熱弁した。

パネルディスカッションでは学生がパネリストに対し率直な疑問を投げかけた。現在広報を担当している入行7年目の唐木さん(経済学部卒)は、「銀行の職務の中でやりがいを感じる瞬間」 について聞く質問に、「自分がゼロから企画したCM 案件が採用され、世の中に出たとき達成感とやりがいを感じた」と答えた。また反対に「大変だったこと」について聞く質問には、 入行4年目の樋口さん(法学部政治学科卒)が応え、「SMBCでは若手のころから仕事を任せてもらえる。早いうちから経験を積める、良い文化ではあるが、自分の未熟さや能力不足で顧客に迷惑をかけてしまったときは大変だった」と回答した。

SMBCのようなメガバンクには実に100を超える部署が存在し、総合職は各部署を数年単位で渡り歩くことができる。多様なニーズに応える能力は、そういった企業構造によっても培われるのだろう。部署が変わるたび転職したかのように業務内容がガラリと変わり、グローバル事業に携わることもある。

入社後も幅広い選択肢からキャリアを形成できるのはメガバンクの魅力といえる。栗原さんは銀行業界を「いろいろな仕事を経験でき、幅広い業界の企業とともに働ける環境」とし、「さまざま様々なことができる業界だからこそ、いろいろなことに挑戦できる学生時代の経験が活きる。充実した学生時代を送ってほしい」と参加者にメッセ―ジを送り講演会を締めくくった。

教育業界(株式会社ベネッセコーポレーション)

教育業界での質疑応答の様子

全塾ゼミナール講演会を締めくくったのは、ベネッセコーポレーションによる教育業界の講演だ。社員の水上宙士氏と飯田智紀氏が登壇し、教育業界の現状やその展望について語った。

堅調に市場を拡大しつつある教育業界。その中でもトップシェアを誇るベネッセは、幼児からシニアまで,さまざまな層へのサービスを展開している。水上氏によると、近年のトレンドの一つである「デジタル・DX」を巧みに取り入れた教育も充実しているという。例えば、AIによる、目標と実力の差の分析は個別学習に大いに寄与している。また、毎月提出された課題に担任制で個別に添削・指導をする「赤ペン先生」がオンライン化したことは、提出から返却までの時間の大幅な短縮に繋がった。

教育とは「社会の鏡」であると語る飯田氏。教育には,社会の動きを先読みし、それを具現化していく力があるからだ。これからの社会で求められていくのは、トランスフォーメーション(変革)に「対応する」ことと、それを「起こす」ことである。そして、自らをアップデートし続けるためには学び直し(リスキリング)が必要だ。だからこそ、ベネッセは学生だけではなく社会人の学びも支援している。

二人の講演が終わると、質疑応答の時間へと移る。「ベネッセが必要とする人間とは?」という質問に対して飯田氏は「色々な社会課題に興味を持ち、行動が取れる人」、水上氏は「現状にとらわれずチャレンジする人」を挙げるなど、主体的に取り組むことの大切さを強調した。

「ビジネスの力で社会問題解決をしたい」という目標を持って教育業界へと足を踏み入れた水上氏と飯田氏。二人の言葉には、強い熱意と揺るぎない信念がうかがえた。ベネッセの企業理念は「よく生きる」。ベネッセを始めとした教育ビジネスは、きっと誰かの生きる道を支えていくだろう。

(姫野太晴・三間結菜)